基幹病院として、地域住民に安心、安全な医療を提供する
町を歩くと、個人経営の商店や工場が多く目につく。
金属加工・ゴム製品などの製造業を中心に労働者でにぎわった地域はしかし、国内産業の衰退とともに人口減が進んだ。高齢化率は29%(2013年)と、高い水準に達している。
◎公的病院的な役割を期待されて
当院のある生野区は、いくつかの特徴を持った行政区です。最大の特徴としてあげられるのは、外国籍の住民の方が多いということでしょう。
公共事業の労働力として、旧植民地時代の韓国・済州島出身者を中心に、多くの韓国人・朝鮮人が生野区に移り住みました。すでに、移住してきた方々の孫(3世)や4世の世代になりました。生野区住民の4人に1人が外国籍というデータもあります。区内にあるJR鶴橋駅周辺は日本有数のコリアタウンとしても有名ですね。
一方、高齢化率については大阪市内で西成区に次ぐ高率であり、高齢者の独居世帯が非常に多いという特徴もあります。高齢者の死亡・転出数と人口減少数も市内最多で、なかなか負の循環から抜け出すことができません。
こういったことと関係するかどうかはわかりませんが、生野区には公立病院がありません。区の境を少し越えた天王寺区には、われわれ医療者が御三家と呼ぶ、大阪赤十字病院と大阪警察病院、NTT西日本大阪病院がありますし、東に隣接する東大阪市には市立総合病院があるのとは対照的です。
公立病院がない生野区内では当院の規模が最大であり、区内の基幹病院としての役割を担う必要があると考えています。区内から「御三家」に流れていた患者さんを地元で診るという責任を果たし、安心感を担保していくことも病院の役割になるでしょう。
◎地元医師会と患者情報を共有
区内には17の病院がありますが、200床以上の病院は三つしかありません。7対1看護配置や高度な医療が提供されるDPCⅡ群病院に指定されているのも当院だけです。そういう意味では、せめて二次救急には十分に対応できるようにしたい。
地元医師会とは、患者さんの情報を共有化するシステムを運用しています。まだ、電子カルテの共有化までは進んでいませんが、情報へのアクセス権をどこまで広げるのか、個人情報の保護についてしっかりとした仕組みができれば、すぐに実現できると思います。
患者さんの既往歴や医療情報などを共有化するにあたっては慎重に進めなければなりません。閲覧できるのは医師だけなのか、看護師まで許可するのか、あるいは現場で必要になるであろう訪問介護士やケアマネジャーはどうなのか。
これはじつは悩ましい問題で、看護師はよくてケアマネはだめだという線引きや、患者さんの全情報が100だとしたら、50まで許可するのか70まで見られるようにするのかなど、クリアすべき課題は多いと思います。遺伝性疾患であれば、情報が漏えいすることで差別的扱いをされる危険性もありますので、きわめて慎重に進めるべきだと思いますね。
情報の秘匿化が実現できるのであれば、国民背番号を使うことで日本の医療費を抑制することもできると思います。
たとえば、血液検査などのちょっとした検査やMRI検査など、医療機関ごとに何度も同じことを繰り返された経験を持つ患者さんは多いでしょう。本来なら一回の検査結果を医療機関で共有して使うべきで、技術的には可能だと思います。薬剤も一括管理できるので重複処方を減らすことができます。
◎救急体制の課題
やはり救急機能を拡充させることが最優先だと思います。昨年は3844人の救急患者さんを受け入れました。このうち救急車搬送は1853台です。
「断らない救急」を心掛けていますが、実際にはなかなか難しいですね。24時間の救急体制を敷いていますが、救急の専門医は一人。午前9時から午後5時までは受け入れ可能ですが、夜間の受け入れ体制が整っていません。
夜間は内科系と外科系が一人ずつしかいませんので、バックアップ体制を充実させることが必要ですが、残念ながらコストがかかりすぎて実現できないでいます。
救急は主に整形外科的疾患が多いですね。これまでは夜間の心臓カテーテルも可能でしたが、循環器の医師が少なくなったため心臓のハートコール(心臓疾患の救急対応)に対応することが難しくなりました。
◎女性医師への支援策を模索して
2013年に病院を増改築しています。病院機能の拡大と、懸念される東南海地震に備えたものです。地域の基幹病院として、区の医師会が使えるようなホールも備えたかったのですが、なにぶん予算とスペースが不足し、実現できませんでした。
新しくなった病院で目指したいのは、「地域のみなさんに信頼される、安心感を与える病院」です。さらに、大阪市立大学医学部の学生や研修医の臨床研修指定病院であり、基幹型医師臨床研修病院の指定も受けていますので、指導や臨床研究についての機能も充実させます。
昨年、亜急性期病床を地域包括ケア病床に転換しました。当院の一般病床は、急性期病棟は在院日数の制約があります。いわゆる一般病床である程度落ち着いた方で、必要であれば地域包括ケア病棟に入院してもらう、あるいは、一般病床に入るほどではないがリハビリが必要な方などに使うことを想定しています。
区内には一人暮らしの方が非常に多いため、入院の必要はないけれども自宅に戻すわけにもいかない、という方も多いのです。厚労省が主導する病院機能の分化というのは、理屈としてはわかりますが、しゃくし定規に割り切ることもできないというのが現場にいる者としての実感ですね。
最近とくに実感しているのですが、これからは女性医師の力を借りなければ病院が成り立たない時代が来るということです。
当院としても、女性が働きやすい環境や働き続けることができる環境をどのように実現するかということを真剣に考えています。保育園の整備など、出産を経た女性医師の支援策を具体的に進めていきたいと思います。
医療法人育和会 育和会記念病院
大阪市生野区巽北3-20-29
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