精神科医療の現実を見つめて、その先へ。
急性期の受け皿機能
当院は、急性期で完全に治療できなかった方や、急性期後の受け入れ先がなかなか見つからない方など、処遇困難な方をフォローしている部分が大きいですね。治療面では急性期病院に負けないものを提供していますが、現実的には受け皿機能を期待されているのだろうと思います。
患者さんの次の居場所である社会施設や受け入れ先への橋渡しをするのも大きな役割です。戻る場所がなければほかの施設を探す必要があるし、それも無理であれば不動産も探さなければなりません。
行政側は、在院日数が増えて困ると苦々しく思っているかもしれませんが、腰を据えて急性期病院にできないことをやっているという自負があります。
条件反射制御法
アルコール依存症や薬物依存について対応が必要になったこともあって、条件反射制御法(下部に詳細)を取り入れました。精神科医療の現場では認知行動療法が全盛ですが、違った治療法があることを知ってほしいですね。
理想の医療、病院
私の考える理想の病院、医療というのは「急性期のユニット+訪問看護」です。308の病床を抱える、在院日数の長い病院の院長が言うことではないかもしれませんが(笑)。なにが正解かはわかりませんが、数十床程度のユニットと救急ユニットがあって、積極的に「攻め」の訪問診療ができるヒトとモノがあればいい。訪問診療については、信頼できるスタッフとユニットさえ用意してもらえれば、それだけで十分な医療が提供できると思っています。
精神疾患を社会で支える
理想は地域での生活を社会全体で支えることでしょう。よくあるケースで、退院しても家庭に戻れないことがあります。家族が拒否してしまって、「お前の顔なんて見たくない、二度と帰ってくるな」と言われてしまっている。
地域で生活させようと思ってもコミュニティーが崩壊しているとどうしようもないし、福祉ホームなどに入居できればいいのですけど、やっぱり受け入れる側も選択しますからね。どこにも受け入れてもらえない方は病院の近くのアパートに入ってもらって、そこで生活してもらいます。訪問看護を使ったり、デイケアに来てもらいながら、地域での生活をサポートする。作業所やNPOも頑張っていますね。
地域社会にはまだまだ偏見がありますし、精神疾患に対する「理解」も不十分だと思います。とにかく居場所がないんですよ。
条件反射制御法について、豊内紳悟看護副主任に聞く■
条件反射制御法は、タバコやアルコールの依存、ドラッグ、盗癖、性犯罪などの依存を制御する治療法です。動物的な脳から来る第1信号系(快楽や身体反応)は、人間的脳からくる第2信号系(論理的思考や習慣)よりも強力に脳にインプットされます。たとえば、梅干しを見たら唾が出るという条件反射を止めることは難しいですよね。だから、アルコール依存でいえば「悪いとわかっていても飲酒してしまう」という"条件反射"を「飲酒しない生活」という"条件反射"に変える必要があるのです。
まずは飲酒できない時間を定着させることに始まり、「私は今お酒を飲むことができない」などの言葉(キーワード)を必ず行動とともに口に出すことで、新しい条件反射を身体におぼえさせていきます。手を胸において言うなど、行動と一緒に脳にインプットし、トータルで約200 回のキーワードアクションを繰り返します。さらに疑似摂取ステージや作文ステージなどの4ステージにわたる制御法を繰り返すことで、依存欲求を制御できるようになります。