現代社会における精神科医療を牽引
昭和初期には太宰治が入院し、その作品に登場する病院のモデルになったとも言われる。精神科医療の拠点として、遠方からも患者を受け入れ、歴史と伝統を基盤としつつ、高齢化や地域移行への対応など、現代社会に必要とされる精神科病院としての役割を果たす。
―4月に就任されました。
私は若い頃、常勤医として当院に7年ほど勤務しており、ここで育てられたという経緯があります。その後は総合病院の精神科で仕事をしてきましたが、いつかは精神病院に戻りたいと思っていました。ご縁があって2016年6月に副院長としてこちらに戻り、この4月から院長を拝命することになった次第です。
当院には長い歴史と伝統があり、長年培ってきた固有の風土・雰囲気を持っています。職員の意識も高く、医師や看護師だけでなくさまざまな職種の人たちが、良い医療を実践しようとそれぞれ高い目標を持って仕事をしていますし、チーム医療が深く根付いています。
若い頃、その風土の中で育ち、雰囲気にもなじんでいたことは、今、院長としてマネジメントを行う上で、とてもやりやすいと感じています。
―精神科のリーディングホスピタルとして、今後、どのような取り組みを。
当院の取り組みには、三つの柱があります。
まず第一は、精神科救急・急性期医療です。当院にはスーパー救急病棟と急性期病棟が二つずつあります。精神疾患の患者さんの受け入れは、一般の救命救急センターや急性期病院では難しいこともあり、医療圏域外などからも救急搬送されますが、依頼があれば断らずに受け入れています。スーパー救急病棟には措置入院の患者さんも多く、年間80件ほどになりますね。
また、交通の便が良く駅からも近いため、都心や多摩地域などからの患者さんも多くお見えになります。外来患者数は1日平均200人ほどになります。
柱の二つ目は、患者さんの地域移行推進です。これは、患者さんを長期に入院させておくのではなく、きちんと治療をし、地域での生活に戻してあげましょうというものです。当院には今月まで地域移行機能強化病棟があり、専従のPSWが3人勤務して調整をしています。今は地域にも、訪問看護、デイケア、作業所など精神疾患を持つ患者さんが生活するための受け皿が増え、地域移行を進めやすくなっていると思います。
柱の三つ目は、身体合併症医療です。これは精神疾患がある患者さんが骨折をしたり、がんなどさまざまな病気にかかった際の治療をするものです。当院はもともと精神科だけでなく、内科や脳外科、整形外科なども持っています。現在も内科の常勤医が3人いるほか、脳外科、整形外科、皮膚科などの診療も行っています。
身体合併症を考える時、どうしても切り離せないのが認知症の患者さんです。当院でも超高齢社会を反映し、認知症の患者さんが増加しています。認知症専門の病棟が55床ありますが、入院のニーズが非常に高いのです。高齢の患者さんは認知症以外にも心臓病や脳梗塞、糖尿病など多くの病気を抱えており、身体合併症への対応が不可欠です。
この三つが当院の強みであり、今後さらに向上を目指したいと思っています。
―病棟を建て替える計画もあるそうですね。
細かいことはまだ何も決まっていません。これからの超高齢社会、また脱入院化・地域化の流れの中で、精神科病院の私たちにしかできないことは何なのかを、今、考えています。
急性期の患者さんを引き受け、早期に治療をして地域に戻し、患者さんに発生した身体合併症もきちんと診る。その大切な三つのポイントと経営とのバランスを慎重に吟味しつつ、病院として今後、どのような道を歩めば良いのか。模索しながら、前に進んでいきたいと思っています。
一般財団法人精神医学研究所附属 東京武蔵野病院
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