5月1日に新病院開院 浅野昌彦 院長にこれまでとこれからを聞く
―公立西知多総合病院の特徴は。
ここ東海市には東海市民病院、隣接する知多市には知多市民病院という、共に30年以上の歴史のある市民病院がありました。しかし医師不足などで、地域医療や救急医療を担うことが困難になってきました。さらに老朽化による建て替えの問題も両方の病院に出てきました。
これを解消するため、両院をいったん解体し、1つに統合して新たな病院をつくろうという話が持ち上がり、平成20年に統合計画が始まりました。22年には病院事業を東海市と知多市が設立した西知多医療厚生組合に移して経営を統合し、今年5月1日の開院となりました。
地域の方々に質の高い医療を提供するほか、地域医療連携を強化し、24時間断らない救急医療を実現していく。これが大きな特徴です。
―先ほども救急車が到着しました。
東海市も知多市も知多半島医療圏という二次医療圏に属しています。知多半島医療圏の中で救命救急センターがあるのは市立半田病院です。ほかの病院は医療機能やマンパワーの問題ですべての救急患者さんを引き受けるわけにはいかない。そこで当院では、安定した救急医療を提供するために「救急診療センター」を新設し、ER型の救急治療室を整備しました。
―どのような体制ですか。
2人の救急専門医を日勤帯の常勤とし、夜間と休日は、外科系・内科系医師それぞれが当直医として救急を担い、ほかの診療科はバックアップ体制となります。救急当直の診療科で果たせない場合は、できる医師を呼んで診療してもらうという病院をあげて救急を支える体制です。そして重症患者についてはICUを8床新設し、集中治療専門医2名が中心となって24時間体制で診療を行うことで、24時間断らない救急医療を実現しています。医師も非常に情熱をもって救急に取り組んでくれています。これを支えるのはやはり医師のモチベーション、使命感かと思っています。
―統合には苦労もあったでしょうね。
当時私は知多市民病院の副院長で、25年の4月に医療監(いりょうかん)という肩書きで参加しました。役割は新病院建設の統括責任者です。
病院の設計やレイアウト、医療機器の選定や電子カルテの整備、業務委託に関することなどいろいろな準備が必要で、そのすべてに参加しました。日常診療もしながらでしたから大変でした。
コンセプトを「新しい病院の創造」にし、新病院は知多半島北西部の急性期医療を担う基幹病院になるから、医師も医療職もがんばっていこうとメッセージを何度も出しました。しかし、文化というものは時間をかけて作り上げられるものですから、やはりどこか過去を踏襲するところが出てきます。急性期医療になじめず、市民病院の時のような、慢性期の患者さんをゆっくり治す仕事のほうがいいという職員も何名かいました。2つのものを1つにし、新しいものをつくる作業は、そんなに楽なことではありませんでした。
―新病院のメリットは。
統合する前は、自分の専門領域ではない疾患の治療には不安がありました。今は30の診療科にそれぞれ専門医が勤務し、合同医局をつくって医師同士の顔が見える環境を整えました。患者さんのことで困れば、診療科の壁を超えて気軽に相談できますから、自分の専門領域の力をすべて発揮することが、患者さんにいい結果を生むという、医師同士の連携にもつながっています。
―地域の反響はどうですか。
東海市・知多市は南北に長く、この病院はちょうどその中間にあり、ここに来れば安心して治療が受けられるという信頼をつくりつつありますが、まだまだすべての住民に公立西知多総合病院が知られているわけではありません。
「24時間断らない救急医療」は実現できており、地元だけではなく、近隣の大府市(おおぶし)や半田市からも救急車が来ています。最近の受け入れ台数は月間400台近くになり、年間5千台を超えるかもしれません。どの地区も高齢者の搬送が多く、脳梗塞や心筋梗塞は一刻の猶予もなく緊急治療が必要になります。循環器内科医や脳神経外科医をはじめ、常勤医師は緊急呼び出しに応じてくれますので、速やかな治療ができています。
―地域医療連携は。
開業医さんからの診察の申し込みは、これまで電話やFAXを使っていましたが、当院の電子カルテシステムの中でインターネット、WEBを利用して、診療所からの診察予約や検査の申し込みが可能になりました。そして結果もWEBを通してお返しすることもできます。「さくらねっと」という愛称で呼ばれ、個人情報の保護も万全です。多くの地域の医療機関、開業医のみなさんに登録医になってご利用していただければと思います。
―今後の抱負を聞かせてください。
公立西知多総合病院は免震構造の建物であり、屋上にはヘリポートもあります。9月30日付けで災害拠点病院の指定を受け、災害時には災害拠点病院として、地域医療を担っていきます。
また、この病院建設の基本構想に、がんの初期から終末期までの治療を提供することがあります。そのために、できるだけ早く放射線治療部門を整備し、早期から終末期にいたる一連のがん治療を提供できる病院にしていきたいと思います。