高松赤十字病院 院長 網谷 良一
ー独自の災害対策マニュアルがありますね。
災害拠点病院として一番大事なことは、災害対策のしっかりしたマニュアルを持っているということです。
当院の災害対策マニュアルは香川県の独自性を加味して作成しており、災害訓練をもとに検証を加え、毎年改訂して災害拠点病院として必要なものを網羅しています。
災害対策マニュアルはレベルを4つに分けて作成しています。たとえばレベル3は、非常に大きな災害だが、病院機能が残っている状況。レベル4は病院機能が失われて患者さんを避難させるような状況です。
近い将来の現実的な課題として、レベル3を想定している南海トラフ巨大地震があります。また、香川県の南部で活断層が確認されているため、レベル4もありうると思っています。そういった懸念に対応したマニュアルを作成しました。ハード面でも、平成26年3月には免震構造を採用し災害対策を強化した中央診療棟が完成しました。古い建物で耐震基準を満たしてないものは早急に建て替えていく計画です。
ー企業と災害支援協定を結んでいます。
当院では、災害支援で提携している業者のみなさんから、災害時にはエネルギーや医療用酸素の補給、飲料水を提供してもらう協定を結んでいます。加えて災害に備えた備蓄として院内に患者さんのための食糧を3日間分用意しています。建て替えを予定している新棟では職員のための備蓄スペースも用意します。
自家発電装置も設備していますので、災害時にすぐに病院機能が失われることはありません。その間に災害支援協定を結んでいる業者からの追加補給を待ちます。たとえばガソリンは、協定を結んでいる総合エネルギー共同組合加盟の、市内各所にあるガソリンスタンドから補給してもらう計画です。
災害時は連携が必要になりますが、職員に日々の心構えがないと十分に機能しません。毎日の心構えと準備が重要になります。
ー日赤の機能と役割は。
各地の赤十字病院はおおむね当院と同じようなレベルを維持し、地域の災害拠点病院に指定されていることが多いです。
赤十字病院は「いざというときのための病院」という意識が特に強いと思います。災害支援経験を持つ職員も多いので、彼らのさまざまな経験を日赤のネットワークに還元していく。だから赤十字には災害対応やその他ノウハウが蓄積されているのです。
ほかにも、日赤には国際救援拠点病院が全国に5つあり(東京、名古屋、和歌山、大阪、熊本)、海外へ出て行くことも多いです。当院からもハイチ地震の救援に看護師を派遣しています。
ー災害救援チームとは。
阪神大震災の反省と経験をもとにDMAT(災害派遣医療チーム)ができたことで、災害対策は大きく変わりました。当院でもDMATを2班、救護班を8班編成しています。東日本大震災のときは遠距離ということもあって救護班を派遣しました。昨年の広島土砂災害でも救護班を派遣しています。距離や被災状況によって対応は変わってきます。香川県外であっても、近隣の大災害であれば当院が拠点病院として機能することもあるでしょう。
被災者の受け入れやDMATの派遣など、果たす役割は状況に応じて変化していくと思います。
放射能汚染が懸念されるなどの特殊な状況下では別の判断をしなければなりません。そういった情報は日赤本社で集約して全国の病院で共有します。テロ被害のマニュアルも作成している最中です。マニュアルに先立って、NBC(Nuclear, Biological, Chemical)に備えた訓練については専用の防具を揃えて行なっています。
そのほか、災害対策委員会は災害セミナーなど全職員向けの研修を主催しています。もともと日赤の職員には使命感があるので、こういった研修を重ねることで災害支援に積極的に志願してくれるようになります。
職員の災害に対する反応は極めて速いと思います。テレビの被災状況を見ながら出動する準備をして病院からゴーサインが出るのを待っている。
災害時の登院基準もあり、その基準に達したら連絡がなくても病院に駆けつけることになっています。それを意識して、院長、副院長もできるだけ病院周辺に住むようにしています。
ー高度急性期医療を担っている自負がある。
当院は地域の急性期医療、とくに高度急性期を担う中核病院として位置づけられています。そのご期待に応えるため、救急医療や、その他多領域にわたる高度医療の実践に力を入れ、高松市以外の医療圏に対する責任も果たしていきます。
そのためには病院施設の充実や高度な医療機器の設備が必要であり、さらにはマンパワーの拡充なども実現して病院機能を高めていきます。
また、当院が高度急性期医療を担っていくなかでは、地域のクリニックや病院との連携が必要になります。強固な連携と綿密な計画をもとに役割分担していきたいと考えています。