博多メディカル専門学校(福岡市東区)で9月7日、一般社団法人福岡県臨床工学技士会(髙取清史会長=福岡県飯塚市)が教育セミナーを行なった。同会は高度化する医療機器への知識をアップデートするため、同様のセミナーを定期的に開催し、会員間での情報交換を行なっている。
初めに髙取会長が、10月に同時開催される第9回九州臨床工学会と第22回福岡県臨床工学会、来年5月に福岡市博多区で開催される第25回日本臨床工学会を紹介した。第25回日本臨床工学会は、京都との激しい誘致合戦の結果決まったという。
テルモ㈱サービスエンジニアの中村誠次郎氏は、ポンプを使う上で、主に流量を一定に保つための注意点を述べた。チューブやシリンジの断面積はメーカーによって違うので、使用するポンプメーカー指定のものを使わなければ流量精度が狂い、警報機能も正しく働かないことが強調された。シリンジポンプの場合、患者との高低差や固定不良により、薬液が急速注入される危険があるという。ポンプを複数ラインで使う場合、ポンプを使用しない自然落下のラインがあると、逆流や気泡混入の原因になるので、すべてのラインでポンプを使用するように注意した。
日本光電工業㈱の中村直昭安全管理情報担当は、「除細動器は薬事法が定める特定保守管理医療機器で、保守点検計画を策定すべき医療機器だ」と述べ、日常点検や定期点検、消耗品の確認方法などを説明した。消耗品としては特に専用ペーストの残量確認を促し、心電図用のペーストやエコーゼリーは使用不可だと述べた。またAED( 自動体外式除細動器) を使う場合、胸毛の濃い患者は毛がじゃまをしてうまく作動しないが、パットに予備があれば1枚目の粘着力で素早くむしり、2枚目で速やかに処置を行なえると、予備を備える重要性も説明した。ほかの注意点として、使用時に操作者が電撃を受けないようにすること、可燃性麻酔ガスや高濃度酸素雰囲気内、高気圧酸素治療用タンク内では使用しないことなどが延べられた。そのほか、除細動器には単層性と二相性があり、心筋へのダメージが少ない二相性を推奨した。
後半は本田靖雅常務理事を司会者として、手術室関連業務に関するワークショップが行なわれた。
同会の医療機器管理・手術室関連業務委員会委員長で、産業医科大学病院(北九州市八幡西区)臨床工学部の高橋一久主任は手術室業務の実態を伝えた。産業医科大学病院で一番多いのは内視鏡手術の関連業務で、平成25年度は1615例。器材の振り分けやモニタの配置と点検、術中の機器操作・トラブル対応、終業点検や映像編集、片付けなどを行なっているという。ほかには、生体情報モニタのセッティング、自己血の回収、誘発電位測定などを行ない、人工心肺に関する業務は平成25年度は54例あったと述べた。
10月4・5日に北九州市の北九州国際会議場で開催される第9回九州臨床工学会。主催は福岡県臨床工学会で、大会長は同会の髙取会長。第22回福岡県臨床工学会も併催される
下は来年の5月23・24 日、福岡市の福岡国際会議場と福岡サンパレスで開催される第25 回日本臨床工学会。主催は日本臨床工学技士会と福岡県臨床工学会で、学会長は日本臨床工学技士会の井福武志副会長
戸畑共立病院(北九州市戸畑区)臨床工学科の甲斐雄多郎氏は、医療法で医療機器を安全に使用するために「医療機器安全管理責任者」を置くことが定められているなど、手術関連の法規を説明したほか、臨床工学技士基本業務指針2010や手術医療実践ガイドラインの内容を紹介し、看護師・看護助手との業務分担と共有について話した。特に、前述の指針で「清潔操作を必要とする」と書かれた特記事項に注目し、医療機器の滅菌は看護師のみで扱うには限界があるとの意見を述べた。しかし「臨床工学技士が清潔補助業務、中央材料室に介入するのは有効だった」と自院でのケースを説明しながらも、核施設の状況で判断すべきと、強い推奨は避けた。「従来の医療機器保守管理・操作では、術中の係わりが薄く対応が難しかったが、現在は解消している」と、臨床工学技士が手術に関わることを肯定した。
古賀病院21(久留米市)の鹿口研一臨床工学技士はダ・ヴィンチ・サージカルシステムの導入までのトレーニングと、手術時のトラブル対応などについて説明した。
同システムを用いた加算の基準には、常勤の臨床工学技士1名が必要で、3か月のトレーニングの後に初症例に関わったという。鹿口臨床工学技士は「(ダ・ヴィンチ・サージカルシステムは)トラブル症例の報告が少ない。今後臨床工学技士のネットワークを使って、情報共有を行ないたい」と述べた。
閉会式で医療機器管理・手術室関連業務委員会の高橋誠一郎氏は「今後も会員の役に立つセミナーを企画していきたい」と述べた。
髙取会長の談話「手術は機械の多い分野なので、安全に扱うために手術室での業務は今後拡大していくだろうし、我々が携わるべきだと思う。通常の業務とは違い特殊なので、どう関わるべきか考えることは必要だろう。このような機会は今後も設けたい」