第88回日本感染症学会学術講演会(会長=愛媛大学大学院医学系研究科血液・免疫・感染症内科学講座、安川正貴教授)、第62回日本化学療法学会総会(会長=大分大学医学部呼吸器・感染症内科学講座、門田淳一教授)が6月18日から20日まで福岡市中央区のヒルトン福岡シーホークで合同開催され、およそ3千500人が集まった。
「両学会の架け橋に」と、安川、門田両会長
開会あいさつを行なったのは日本感染症学会の安川会長。「今回のテーマは感染症と化学療法―変貌する新時代への架け橋―で両学会長の思いが込められている。感染症を取り巻く課題は多く、内容も多様。今後の感染症対策は両学会が以前にも増して協力していかなければならない」と、今学会を両学会の架け橋にしたいと述べた。
シンポジウム「ダニ媒介性感染症の現状とその対策」では、司会を岡山環境保健センターの岸本寿男所長と愛媛大学大学院医学系研究科血液・免疫・感染症内科学の長谷川均特任教授が務めた。
長谷川特任教授は「近年SFTS(重症熱性血小板減少症候群ウイルス)の患者が国内で発見され大きな問題となっている。リケッチア感染症のつつが虫病や日本紅斑熱の患者も毎年一定数発生し、ダニ媒介性感染症は多様化している」と語り、演者の藤田博巳馬原アカリ医学研究所所長は「国内のダニ媒介性感染症は、2013年のSFTSに始まり、ヒトアナプラズマ症、新興回帰熱が新たに確認され、13種類に達した」、「生物多様性の負の側面としての病原微生物と媒介ダニの多様性を受け入れなければならない」などと述べた。
翌19日の特別講演「グローバル化における感染症対策」では滋賀県立成人病センターの笹田昌孝病院長が司会を務め、尾身茂独立行政法人地域医療機能推進機構理事長が講演を行なった。
尾身理事長は、「新型インフルエンザの人口10万人当たりの日本の死亡率は他国と比べて際立って低い」と述べ、要因として「国民の健康意識の高さ」、「医療制度が優秀」、「学級閉鎖の早期実施」があげられると話した。感染症対策には「発生リスク増大の覚悟を持ち、普段からの準備が必要。感染症専門家の役割が極めて重要なので、国内での臨床・研究に加え、国際的な感染症対策に積極的に参加してほしい」と訴えた。
シンポジウム「感染症専門医の将来像を考える2014」の司会を日本感染症学会の岩田敏理事長と安川会長が務めた。
安川会長は「感染症専門医制度改革について」の講演も行ない、感染症専門医の人数は3000人〜4000人程度が適正だと考えられるが、現状は1000人超で、必要数を大きく下回っており、日本感染症学会は研修プログラムを作成し、感染症専門医制度改革に向けて検討を進めていると語った。
演題終了後の総合討論では、千田彰一香川大学医学部附属病院総合診療部教授、下野信行九州大学病院グローバル感染症センター長、三鴨廣繁愛知医科大学大学院医学研究科臨床感染症学教授、吉藤歩慶応義塾大学医学部内科医が出席者からの質問に答えた。
県立広島病院の桑原正雄院長が司会をした「心内膜炎・敗血症(サーベイランス)2」。演者の九州大学病院検査部、病態修復内科学、グローバル感染症センターの門脇雅子医師は「当院での6年間の腸球菌菌血症についての検討」で、「当院の腸球菌菌血症102例すべてが真の菌血症で、重篤な基礎疾患や体内異物留置を有する院内発症者が多いことを反映し、分離菌種はE.faecalis に次いでE.faecium やVIEが多く見られた」、「死亡率はE.faecium、血液疾患・骨髄移植患者、FN・CRBSI で高く、合併症として感染性心内膜炎4例、肝腫瘍5例を認めた。血液培養採取によるいっそうの早期診断、閉塞機転、適切な抗菌薬治療が必要だ」と述べた。
シンポジウム「国内外のサーベイランスの動向と臨床への活用」で司会を門田会長と、花木秀明北里大学抗感染症薬研究センター感染防御学教授が務め、サーベイランスの意義とどうすれば有効利用できるかについて各演者の講演があった。
門田会長は翌20日のランチョンセミナーでも、丸山貴也国立病院機構三重病院呼吸器内科医の講演「インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンの現状と結合型ワクチンへの期待」で司会を務めた。
丸山氏は「日本のインフルエンザワクチン接種率は約50%、肺炎球菌ワクチンは約20%と先進国の中では低い水準」と述べ、「国がインフルエンザワクチンの接種を推奨しているのは65歳以上の高齢者と60〜64歳の身体障害者一級相当の基礎疾患を有する人に限られ、65歳未満の人は、ほとんど費用補助が受けられない。今後の公費助成の適応拡大が求められる」と語った。