CUREからCAREに在宅医療を進めよう
緩和ケアは医師・看護師・薬剤師ら多職種の連携が必要
「最期は自宅で」。住み慣れた地域で家族とともに療養する在宅医療はまだまだ地域医療として浸透していない。10月31日、九州・沖縄で在宅医療を進める医師ら医療関係者、市民が現状と課題を議論する「第1回九州在宅医療推進フォーラム~地域で支える在宅医療システム」が福岡市の福岡国際会議場に約250人の関係者を集めて開催された。各地域からの現状が報告され、問題点が討議されるなど在宅医療推進の熱気は高まった。
全身をさまざまなパイプに繫がれ延命措置を受けるスパゲティ症候群。それよりも住み慣れた家でもっと人間らしい最期を迎えたいと望む人は多い。しかし、現実の死亡場所は在宅死16.5%で81.1%が病院死である(2008年)。
在宅医療を推進する全国在宅医療支援診療所連絡会の二ノ坂保喜九州ブロック会長らの呼びかけで開かれたフォーラムには九州だけでなく、関東の在宅ホスピスの実態なども紹介された。在宅医療では「定期往診、24時間対応」が原則。しかし、それを実現するために医師や看護師らは倒れる寸前までの努力を続けている。そんな現状を少しでも改善しようというのが活動の主眼。福岡県では医療関係者がアンケート調査を実施し、往診医、訪問看護ステーション、緩和ケア病棟やその費用など終末期に必要な医療情報をまとめた「ふくおか在宅ホスピスガイド」(07年)を刊行。また、在宅ホスピスのボランティアの養成講座を開きすでに150人以上が受講した。
末期がんや難病で在宅医療を始める場合、病院を退院後に往診してくれる主治医、訪問看護師、薬剤師、ケアマネジャー、歯科医など多くの医療スタッフの選定が問題となる。患者と24時間過ごす家族にもケアの技術や栄養管理、家のバリアフリー化など多くの知識や費用が必要となる。それを総合的に支援するシステムを構築しようと在宅医療関係者は必死だ。
九州での在宅医療先進県の長崎県では03年に在宅ドクターネットをスタートさせ、患者の居住地域に合わせて主治医、それを補完する副主治医を決め、訪問診療と緊急時を含め24時間対応のシステムを作っている。08年からは全国4か所の「緩和ケアのための地域プロジェクト」にも選定され3年間で日本の実情に沿った緩和ケアの地域モデル構築を検討している。プロジェクトの目標は
- 緩和ケアの標準化大学や病院などの医師、護師、福祉・介護職に対する支援・教育
- 市民、患者、家族への情報提供
- 地域連携の強化~退院前カンファランスの充実、多職種による地域カンファランスの開催
- 専門緩和ケアサービス利用の向上
これらのモデル構築のため、相談窓口を市医師会内の長崎がん相談支援センターに置くなど積極的に活動している。長崎在宅ドクターネット理事の出口雅浩医師は「開業医は訪問看護センターの協力なしではやっていけません。1カ所の診療所が100人の在宅患者を支えるのではなく、100カ所の診療所が数名の在宅患者を支えるシステムが必要です」と話した。
九州ブロック事務局長のナカノ在宅医療クリニック中野一司院長(鹿児島市)は超高齢化社会を迎えた現在、医療システムがキュア(治療医学、病院医療)からケア(予防医学、在宅医療)へ転換する必要性を説いた。「医師はどうしてもキュア(治療)をしたくなりますが、生老病死は自然なこと。末期がんであってもすぐに死ぬことはないので残された命を楽しもうと、考え方を変えていくことを支援していくアプローチが大切です」と「看取」の死生観の意義を説いた。
総合討論では医師や看護師から「小児科の往診医がいない」「在宅医療をよく理解していない医師もいる」「緊急時の対応で健康を害した」など現場の苦境の声も伝えられた。