困難な肝胆膵だからこそ積極的な姿勢を忘れない
肝胆膵領域の現状、そしてこれからの治療のあり方は―。日本肝胆膵外科学会理事で、6月に開かれる「第31回日本肝胆膵外科学会・学術集会」の会長も務める香川大学消化器外科学の鈴木康之教授に、治療で心掛けるべきポイントや学会の見どころを聞いた。
―治療に関する動向は。
肝胆膵の手術は高い技術が求められ、感染症など術後のトラブルも少なくありません。減少傾向にありますが、それでも高難度手術に分類される肝胆膵手術では2~3%の患者さんが周術期に亡くなるのが現状です。
2008年、日本肝胆膵外科学会は「高難度の手術をより安全かつ確実に行うことができる外科医師を育てる」を趣旨として「高度技能専門医制度」をスタートさせました。
審査において重視しているのは、手術実績表、教育プログラムの単位数。そして、専門医の取得を目指す医師が術者として担当した 「高難度肝胆膵外科手術のビデオ」です。私を含む複数の審議員が技術はもちろん、安全性への配慮も含めて厳しくチェックします。
ですから取得は容易ではありません。制度を開始して10年ほどが経ち、その成果は手術成績の底上げという形で現れ始めています。
―香川大学消化器外科で力を入れていることは。
香川県で唯一、年間50例以上の高難度肝胆膵手術を行う「修練施設(A)」の認定を受けています。
すい臓がんの治療は力を入れている領域の一つです。すい臓がんと診断された患者さんのうち、手術が可能な人の割合は約4人に1人。生存率が低いことで知られ、治療が難しい種類のがんと言うことができます。
2000年以降に登場した抗がん剤によって予後の改善が見られるようになりました。
まず、術前化学療法で再発率の低下と予後の改善が得られています。さらに手術できないケースであっても、抗がん剤や放射線治療を駆使することで腫瘍マーカーである「CA19-9」が正常の値になるなど、患者さんによっては非常に効果が現れる方もいます。
当初は「手術不可能」と診断されていた患者さんが手術可能」となった香川大学の症例はこれまでに13例。そのすべてが、当初から手術可能だった方と成績は変わりません。ただ、効果や副作用を事前に予測するのは難しいのです。
また、香川大学は四国でただ1カ所の「すい臓移植実施施設」でもあります。これまでに6例のすい臓移植を実施しました。血液透析やインスリン自己注射などが欠かせない糖尿病の患者さんにとって、すい臓移植(腎臓同時移植)は透析やインスリンから解放されるため「QOLの向上」に直結し、さらに生命予後も大きく改善します。
6月13日(木)~15日(土)に高松市で開かれる「第31回日本肝胆膵外科学会・学術集会」はどのような内容に。
四国での開催は20年ぶりです。
日本肝胆膵外科学会は、国際化を見据えて「英語での発表」を推進してきました。2017 年の第29回大会が、「第6回アジア・太平洋肝胆膵学会」との合同開催だったことを機に、全面的な英語化に踏み切りました。今回も一部を除いて英語です。
海外から35人ほどのゲストが来日します。国境を越えて、多様な視点から活発なディスカッションが繰り広げられるでしょう。
テーマは肝胆膵外科の原点とも言える「Humanity and Professionalism」としました。肝胆膵領域はリスクとどう向き合うかが大切です。患者さんの状態に応じて安全性には最大限の配慮をしながらも、「どれだけ治せるか」「そのために何ができるか」を積極的に考えるプロの姿勢を忘れてはなりません。
最新の話題を中心に、3日間にわたって充実のプログラムを用意しました。ぜひ多くの方に参加していただきたいですね。
香川大学 医学部外科学講座 消化器外科学
香川県木田郡三木町池戸1750-1
TEL:087-898-5111(代表)
http://www.med.kagawa-u.ac.jp/~surgeryg/