教授の役目は人づくり若手が育つ教室とは
1993年九州大学医学部卒業。米ミシガン大学ケロッグアイセンター客員研究員、福岡大学筑紫病院眼科、九州大学大学院医学研究院眼科学を経て、2018年から現職。
久留米大学附設高校を卒業して32年。2018年4月、眼科学講座の主任教授として久留米に戻った。「教室の盛衰は、人に始まり、人に終わる」と語る吉田茂生主任教授に、人材育成にかける思いを聞いた。
―着任して感じる久留米大学の魅力は。
若い眼科医や研修医が成長する場にふさわしいと感じます。例えば、大きな都市には大学病院もあれば大きな眼科専門の病院、クリニックもあるので、患者さんが分散し、それぞれの医療機関で診る疾患や患者さんの数も分散してしまう傾向だと思います。比べて、久留米市など県南地域は、住民数に対する眼科の基幹病院数が少なく、幅広い状態の患者さん、多彩な疾患を診ることができるのです。これは、眼科医を養成する環境として、非常に恵まれていると思います。
また、診療しやすい環境も整っています。久留米市には「くるめ診療情報ネットワーク(アザレアネット)」という地域医療連携をスムーズにするためのネットワークがあります。患者さんの承諾があれば、久留米市内の急性期病院での診療情報が、かかりつけの病院やクリニックで閲覧できる仕組みです。これによって医師同士の情報共有にかかる時間が短縮され、二重の検査なども避けることができ、医療者、患者さん、双方の負担軽減につながっています。
―赴任後、取り組んだことを教えてください。
昨年5月、病棟に医師用の部屋を設けました。これまで、若い医師がベッドサイドで疑問に感じたことを調べるには、診察室から10分弱かかる臨床研究棟まで足を運ばなくてはなりませんでした。そこで検査機器の配置を工夫し、勉強机を並べたのです。Wi-Fiも整備し、共用のパソコンからは電子ジャーナルを閲覧できるようにしました。医師たちからは「自分が気になった症例に関する文献をすぐに調べられる」と好評です。
また、新たな機器「難治性眼感染症網羅的PCR検査システム」を設置しました。角膜や硝子体から採取した微量の組織から、病原体を網羅的に検出し、診断を補助する機器です。
さらに、2019年には「3Dヘッドアップサージャリー」を導入することが決定しています。従来のように顕微鏡をのぞくのではなく、専用のメガネを装着して、大きな3Dモニターを見ながら執刀。手術室にいるスタッフ全員がモニターの映像を確認することができるため、若い医師たちは、執刀医がどこに着目してどのように手術を進めているのかを効果的に学べるのが大きなメリットです。
病棟への医師用の部屋設置も、新たな機器の導入も、若手が診療や研究に集中できる環境をつくりたいという思いがあるからです。大学教授の仕事は、若手が学びやすい環境を整えていくこと。それが大きな役割の一つだと考えています。
―今後の目標は。
世界を視野に入れた「リサーチマインド」を持つ良医を育てたいと思っています。中国瀋陽の遼寧何氏医学院に在籍する教授たちと共同研究をスタートさせるなど、新たな取り組みも開始する予定です。
また、社会に貢献する研究を進め、その成果を発信することも目標です。久留米市は、研究機関や企業の一大集積拠点の形成を目指す「福岡バイオバレープロジェクト」の中核都市に指定されています。産学官の連携を強め、社会の発展につながるような研究をしたいですね。
「教室の盛衰は、人に始まり、人に終わる」。さまざまな大学で、診療、研究、教育に携わる中で、人をいかに集めて、育てていくかが、教室発展のカギだと考えるようになりました。若い世代が夢を持ち、羽ばたけるように、教授そして一人の中堅の医師として、力を尽くしたいと思っています。
久留米大学医学部眼科学講座
福岡県久留米市旭町67
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