共同研究を続けて画期的な製品を世に
1988年鳥取大学医学部卒業、同附属病院医員。米マイアミ大学医学部留学などを経て、2013年から現職。
学部を越えた横断的な取り組みに長年、力を入れてきた鳥取大学。現在は新規医療研究推進センターが中心となって学外との連携も推進、企業との共同開発の事例にも注目が集まっている。現場の教授に産学連携の実際と今後の展望を聞いた。
―整形外科が携わった共同研究の事例を。
最初に携わったのは医療用のドリルです。2013年に私が運動器医学分野の教授に就いた後、わりと早い時期にお話をいただきました。
鳥取大学は2012年、「次世代高度医療推進センター」を立ち上げました。再生医療、ゲノム医療、医療機器の3部門で発足し、2017年には現在の新規医療研究推進センターに改称しました。部門を統合・再編し、今は、臨床研究支援、研究実用化支援の2部門体制です。
地元の町工場で切れ味が鋭いだけでなく摩擦熱が少なく、さらに削りくずも少ないドリルが開発され、「医療用に応用できないか」という相談でした。
こちらはテクノロジーや工学については無知と言っていい状態。一方でエンジニアの方は、医療のことがよくわからない。お互いに専門分野が違うからこそ、やり取りは非常に楽しかったですね。「こういったことはできますか?」と聞いてみると、すぐに予想を上回る返事がいただけるので、刺激を受けることが多かったのを覚えています。
この医療用ドリルは、骨への食いつきがよく、斜めに穴を開ける際にも、刃先が滑りにくい。摩擦熱も少ないので、骨の壊死も防げます。
現場の医師たちからも好評で、アメリカの学会でも展示されました。今後、整形外科治療で一般的に使用される機器になってもおかしくないと考えています。
―現在、取り組まれている事例があれば。
山陰はマツバガニの産地です。以前から、「廃棄されるだけのカニの甲羅を何かに活用できないか」という話がありました。そこにわれわれの大学の工学部が着目し、開発したのが、カニの甲羅の主要成分「キチン」を粉砕して生成する極細の繊維物質「キチンナノファイバー」です。
現在は、工学部と農学部が中心となって、さまざまな研究が進められています。私たちの教室もそこに加わって、関節でクッションの役割をする「保護材」のようなものを開発できないかと取り組んでいるところです。もし実用化できたら、不要なものを再利用できる"エコ"な医薬品が生まれることになります。
「ダイキン工業」開発の脳の活動を簡易に測定できる機器「非接触型脳活動検知センサー」を、心因性腰痛症の診断に応用できないかという研究も進めています。
―今後の展望を。
山陰は高齢化が進んでいます。来院される患者さんを見ていると、80歳でもまだまだ若い、という印象。90歳、100歳を超える方も珍しくありません。一般的に人生の最後の10%の期間は人の手が必要になると言われていますが、そこをなるべく短くするのが私たちの仕事です。
私たちは期せずして2000年ごろから今まで、20年近く高齢者医療に取り組んできたことになります。高齢化に伴い他の地域がこれから経験することの多くを、われわれはすでに経験しているのです。
だからこそ、他の都道府県、さらには外国に対しても、経験してきたことを発信していく責務があるのではないかと考えています。
県西南部の日野町は、65歳以上の高齢者の割合が50%に迫ろうとしています。こういった地域に定期的にスタッフを派遣して、住民の歩行能力や筋肉量などを調べる健康診断を続けています。住民に自身の健康状態を把握してもらうことが何より大切ですが、集積した貴重なデータを分析し、そこから得られる知見を伝えていくことも重要なことだと思っています。
鳥取大学医学部感覚運動医学講座 運動器医学分野(整形外科)
鳥取県米子市西町36-1
TEL:0859-33-1111(代表)
http://www2.hosp.med.tottori-u.ac.jp/orthopedic/