地域医療を守り国際的な人材を育成する
琉球大学に着任して9カ月。「教育内容を根本から見直した」という変革の背景にあるのは、「人は宝」という古泉英貴教授の強い思いだ。
―医局の特徴を。
前向きでなおかつ臨床力が高い人が多く、医局はとても良い雰囲気です。
近年は眼科疾患の啓発活動が盛んになり、早期発見が増えています。比較的軽症の白内障、緑内障、網膜硝子体疾患などについては手術法が確立されてきたことで、多くの医療機関で手術を含む治療が可能になりました。
地域の最後の砦(とりで)である大学病院に求められるのは、入院による手術・管理が必要な重症疾患に対応できる、高度かつ専門的な診療体制です。
眼科の全領域を網羅するためにはマンパワーを充足させることが必須。そこで着任してまず、私は人材確保および教育内容の見直しを始めました。若い医師に向けて医局の魅力を発信する重要なツールの一つであるホームページをリニューアルし、最新の情報を早く届けるよう努めています。
実習では手術室での見学の際、助手用のマイクロ顕微鏡を通して、より術者に近い目線で手術を体感してもらいます。研修期間中には「豚眼」を使った白内障手術の模擬体験を必修とするなど、より実践的な内容に変更しました。
いわゆるマイナー領域の一つとされる眼科。しかしスペシャリスト志向の強いアメリカでは、内科や外科よりも人気のある領域です。外から得る情報の約8割を占める目を治療することで生活の質を上げ、患者さんを幸せにすることができる診療科であることなど、その魅力を学生たちにレクチャーしています。
取り組みが少しずつ浸透し、うれしいことに入局を検討する学生は増加傾向にあります。教育・研究・臨床はどれも大事ですが、最も重要なのは、学生が「この医局に行きたい」と思う環境をつくること。どんなに忙しくても、丁寧な対応を心がけるよう医局内での意識改革を図っています。
―疾患に地域性は
近視眼の人が少なく、遠視眼の人が多いのは沖縄県特有の傾向です。遠視眼の人に起きやすい閉塞隅角緑内障の発症頻度が高い地域としても知られています。
食生活の欧米化や喫煙、高齢化などで糖尿病に伴う網膜症や加齢黄斑変性の患者さんが増加しているのは全国的な傾向です。
太陽の光が強いことは、沖縄県に加齢黄斑変性の罹患(りかん)者が多いことに関係している可能性があると考えています。
加齢黄斑変性には進行が早い「滲出(しんしゅつ)型」と進行が緩やかな「萎縮型」の2種類があり、日本では滲出型、欧米では萎縮型が発症頻度としては多いです。「脈絡膜新生血管」という異常血管が発生して黄斑を障害する滲出型は、その発生メカニズムに日本と欧米で違いがあるのではないかと指摘されています。
私はこれまで加齢黄斑変性の病態解析とそれに基づいた治療戦略を確立するため、眼底イメージングやバイオマーカーを用いた新たなアプローチ法の開発・応用を研究してきました。今後もこの研究を継続・発展させて、欧米の成果をそのまま導入するのではなく、日本としての対応を考えていきます。
―今後の展開を。
疾病の地域性、台湾をはじめ海外に近いという立地など、沖縄県が持つ可能性に魅せられて、私はこの地にやってきました。今後は私が持つ海外の研究者とのネットワークを有効に活用し、他国との共同研究なども始めていきたいですね。
沖縄県における眼科医療を守り、発展させること。さらには国際的な視野を持つ医師を育て、当医局をアジアの「眼科医療の中核」にしていくことが目標です。
琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座
沖縄県中頭郡西原町上原207
TEL:098-895-3331(代表)
http://ganka.skr.u-ryukyu.ac.jp