知識は大きな力になる 若い世代に"がん教育"を
先日発表された最新がん統計によると、2014年に新たに診断されたがん罹患数(全国合計値)で、大腸がんが男女計で1位。2017年の死亡数では同2位だった。大腸がんが増えているのか、それとも他に要因があるのか、大腸がんの治療に取り組む赤木由人主任教授に話を聞いた。
―大腸がんの患者数が増えています。
この結果が出た要因としては、検診率が高くなったこと、また内視鏡の性能といった技術的な発達によって、これまで見つけることができなかった腫瘍も見つけることができるようになったからだと感じています。潜在的な数としては、変わっていないのではないでしょうか。
初期の大腸がんは、自覚症状がほとんどありませんし、トイレで出血したなどの自覚症状がある時には、もうかなり進行している状態です。だからこそ検診が必要で、最近は検診を受ける人が増えたことで、大腸がんが見つけやすくなったと考えられます。
ただ、食事の変化といった問題はあるでしょう。大腸がんの危険因子と言われているのはアルコール、肥満、肉類の食事です。これらの要因によって、大腸がんになる人が増えていることは見逃すわけにはいきません。データの数字だけで評価をせず、きちんと分析した上で、この結果を考える必要があると思います。
―久留米大学でも大腸がんのロボット手術が始まったそうですね。
4年前までは開腹手術が8割か9割でしたが、私が教授になってから現在では腹腔鏡手術が9割を占めています。切除できる可能性があるのであれば、切除を試みます。切除できるサイズにがんを縮小させる目的で抗がん剤を用いることはありますが、やはり、切除することが基本方針です。
「ダビンチ」によるロボット支援腹腔鏡下手術は、これまでは前立腺がんの手術などで採用されていました。今年4月の保険適用もあり、久留米大学でも「ダビンチ」を使った大腸がん手術を開始しました。その準備として、内視鏡の技術認定医1人がロボット手術の認定を取得。これから実績も増えていくと思います。
ただ、患者さんへの負担は、ロボット手術も腹腔鏡手術も変わらないと思っています。腹腔鏡での手術が中心であることには変わりませんが、ダビンチであれば見えにくいところが見えやすい、やりにくいところがやりやすくなるメリットはあると思います。
何よりも大切なのは、患者さんに対しての安全性。どのような手術であっても、1例でも失敗すれば次はありません。時代によって手術の方法が変わってくることはあると思いますが、何よりも安全であることが一番です。
―「がん教育」の必要性は。
1年間に数例ですが、遺伝性がんの患者さんへの対応には難しいものを感じています。家族性大腸腺腫症などは若いうちに全摘などの判断も必要であり、不安に感じる患者さんへの説明に対して、医師を含めてカウンセリングできる人材も不足しています。
2人に1人ががんになる時代、がんとはどういうものか知らないことは怖いことだと思います。小学生や中学生からの「がん教育」が必要で、そのことが、本人や家族の健康を守ることにもつながると考えています。この12月には地元の高校に講演に行くことが決まりました。中には親が、がんという子どもたちもいると思います。どう話をするのが良いのか、考えているところです。
また、がん治療への理解を企業にも求め、がんの患者さんが社会復帰しやすい環境を整えたり、企業が検診のための休暇を与えたりする意識が広がればと願っています。これまでの経験を生かし、これからいかに社会貢献するか。それが、自分自身の課題です。
久留米大学医学部外科学講座
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