「がん教育」はライフワーク「命」と「妊孕」を守るために

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熊本大学大学院生命科学研究部産科婦人科学教授 片渕 秀隆

1982 年熊本大学医学部卒。同附属病院産科婦人科研修医、米ジョンズ・ホプキンス大学医学部病理学講座研究員、熊本大学医学部産科婦人科学講座講師、助教授を経て2004 年から熊本大学大学院医学薬学研究部教授。2010 年改組により現職。日本産科婦人科学会理事、日本癌学会評議員、日本癌治療学会理事、日本婦人科腫瘍学会常務理事、日本婦人科がん検診学会副理事長など。

 高齢化を背景に急増し、今や日本で年間80万人がかかる「がん」。中でも婦人科がんは、罹患者数やその年齢層がここ30年で大きく変わってきた。

 今ある命と未来の命に向き合う熊本大学大学院生命科学研究部産科婦人科学の片渕秀隆教授に、婦人科がんを取り巻く現状と産婦人科の魅力を聞いた。

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 1981年、がんが日本人の死因の第1位になりました。以降、高齢化を背景に増える一方で、30年前に比べ3倍以上の人ががんになり、2倍以上の人が亡くなる状況です。

 がんは正常な細胞の遺伝子が異常に変わり増殖していきます。1つの因子でなるというわけではなく、ウイルスや化学物質、喫煙などの「外的因子」と生活習慣や免疫、ストレスなどの「内的因子」が重複して発症する場合が90〜95%に上ります。

―婦人科のがんについて教えてください。

 婦人科の3大がんは、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんです。子宮頸がんの多くは、1983年、ドイツのツール・ハウゼン博士によってヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因だと解明されました。

 性行為によって多くの女性が一度はHPVに感染しますが、通常は数か月で体外に排除されます。この感染が持続する環境が発症の危険因子です。30年前までは中高年の病気とされていましたが、今は20代、30代が半数を占めるようになっています。背景には、性交渉の低年齢化や相手の数の増加などの性生活の変化も一因と考えられます。

 子宮体がん、卵巣がんも増える一方です。HPVほどはっきりとは分かってはいませんが、少子・少産化、食生活の欧米化など生活スタイルの変化が影響していると言えます。

 一方で2年前、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが「遺伝性乳がん・卵巣がん」の家系であると告白し注目されました。遺伝性のがんになる人はがん全体の5〜10%です。婦人科で代表的なものとして、この「遺伝性乳がん・卵巣がん」と「リンチ症候群(非ポリポージス遺伝性大腸がん)」があります。

―予防は可能ですか。

 がんを予防する唯一のワクチンとして子宮頸がんを対象としたHPVワクチンが2003年に完成しました。対象年齢の100%に接種するオーストラリアでは初期がんが7割減る傾向を示しています。

 日本でもHPVワクチンが認可され、2011年には対象年齢の67%の人が接種しました。2013年4月には定期接種となりましたがその年の6月、副反応の報告が相次いだことなどから積極的な勧奨中止が通達されました。

 昨年秋、厚労省と日本医師会が接種後の症状への対策を打ち出しましたが、未だに接種再開の目途は立っていません。このことは産婦人科医として本当に心配しています。

 ただ、ワクチンでの予防も100%ではありません。そこで2008年に始めたのが高校生への「がん教育」です。生活環境ががんの危険因子になりますから、まだ生活スタイルが定まっていない10代の子供たちにその背景を教えなければと考えたのです。

 子宮頸がんは女性がかかる病気ですが、男性なしではうつりません。夫の性交渉の相手の数や初交年齢も影響することが分かっていますから、男女両方に話をすることが必要です。 この歳になって医療の根本は予防医学だと思うんです。私にとってライフワークだと思っています。

―早期発見も大切ですね。

 子宮頸がんの検診率は欧米では70〜80%、日本では20%台にとどまります。早期発見できればがんで亡くなったり子宮を失ったりしなくてすみます。推奨されている2年に1度の子宮頸がん検診は必ず受け、子宮体がんの検診もそれと合わせて受けてほしいと思います。

 それでも検診には漏れがあります。卵巣がんの中には1年で急激に進行するタイプもあります。それらを考えると自主的に半年から1年に1度、産婦人科でチェックを受けていただきたいと思います。また家族内にがんの多い人は、検診とともに遺伝専門医への相談をお勧めします。

―治療について教えてください。

 婦人科がんが他のがんと違うところは、胃や大腸が「生活臓器」であるのに対して、卵巣や子宮が「生殖臓器」だということです。病気の根治だけでなく、生殖年齢の女性に対しては妊孕(よう)性の温存も考える必要があります。

 がんの治療は手術、放射線治療、化学療法です。その他に免疫療法や分子標的治療などもありますが、一番はやはり外科手術になります。

 子宮頸がんの初期のものは子宮頸部円錐切除術やレーザー蒸散術で子宮を残すことができます。婦人科の手術の主流は開腹ですが、腹腔鏡下手術の導入も進んでいます。熊本大学では1984年から取り組んでいます。昨年4月には腹腔鏡下での子宮体がんの根治手術が保険適用になりました。

 新しい医療技術であるロボット手術も、徐々に広がっていくと思われます。日本では前立腺がんの全摘術のみ保険収載が認められていますが、欧米ではロボット手術が婦人科の良性疾患手術の中心になっています。熊本大学医学部附属病院にもロボットが導入されていますから、私たちもこれから腕を磨いて進めていきたいと思っています。

 化学療法について言うと、シスプラチン、タキソールの導入で、卵巣がんの治療が激変しました。高齢や進行具合により、手術が適さない子宮頸がんの人には、放射線治療と化学療法を同時にする「CCRT」が導入されています。2013年12月から卵巣がんに「ベバシズマブ」という分子標的治療薬が使われるようになるなど、まさに日進月歩です。

―治療後に妊娠や出産ができるのかも気になるところです。

 1978年、イギリスで世界初の体外受精の女の子が生まれました。「神の領域」を冒すと言われていたこの技術が、日本でも1983年に初めて実施され、今は27人に1人がART(高度生殖補助医療)によって生まれています。

 このARTによって手術で卵巣や精巣をとる前、または放射線や抗がん剤治療で機能がなくなってしまう前に、卵巣から卵子を、精巣から精子を取り出して保存し、病気を克服してから自分の卵子や精子によって子孫を残すことが可能になっています。

 子宮頸がんが若年層にシフトしていることなどを考慮して、がん患者さんの妊娠の可能性を残す「オンコファーティリティ」の考え方を取り入れる必要があります。熊本県と協力し、がん担当、不妊担当が一緒に取り組んでいくシステムができないかと検討を始めたところです。

―最後に、産婦人科の魅力と若い医師に望むことを聞かせてください。

 高校生への「がん教育」の場で、産婦人科に行ったことがあるかとたずねると「ない」という答えがほとんどです。自分が生まれた、人が誕生するところという認識がほとんどないんですね。でも、産婦人科は心から「おめでとう」と言える科です。母子2人以上の命を助ける重要な使命があり、だからこそやりがいがあります。

 どの科にも女性患者さんはいますから、研修医には常に妊娠に配慮して対応できるようになってほしいと考えています。若い医師には、治療の際、身内だと思って判断するよう言っていますし、上に立つ人間がその姿を見せていかないといけないと思います。

 今、女性の産婦人科医が増加し、20代30代では7割が女性です。出産育児で現場を離れる医師もいますが、私は育児をしながら診療医療を続けられる環境を提供してきました。40代、50代は20代、30代をどう生きてどう学んだか、その遺産で花開きます。女性医師の40歳以降を考えています。


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