中・高生へ向けたがん教育 命の尊さを訴える
1982年熊本大学医学部卒業、同産科婦人科入局。1988年熊本大学大学院医学研究科博士課程修了。米ジョンズ・ホプキンズ大学医学部病理学研究員、熊本大学医学部産科婦人科学講師、助教授を経て2004年から現職。熊本大学医学部附属病院副病院長を経て、2018年から病院長特別補佐。
発症が若年化する「子宮頸がん」をテーマにしたがん教育を通し、命の尊さを訴えている片渕秀隆教授。熊本県内の中学・高校での授業はこれまで80回以上。"K発プロジェクト"も推進中だ。活動を始め10年の節目を迎えた今、思うことは。
―活動を始められた理由は。
2004年の教授就任以来、子宮頸がんについて、地域の公民館などで講演してきました。中学・高校で授業をするようになったのは、2008年にある保健師の方から「この内容でぜひ中学生や高校生にも授業をしてほしい」と頼まれたからです。
産婦人科医が学校に呼ばれて話をすること自体は珍しくありません。しかし、「望まない妊娠をしないために」といった内容の"性教育"には私自身、抵抗感がありました。そこには尊い命を授かるはずの妊娠に対して負のイメージがつきまとうからです。
人間形成という視点から、「思春期教育」と名付けて話をしたらどうだろうかと考えました。人間が誕生し、存在していることは排卵、受精、着床という生命現象の結果ですから、自分が生まれて生きていることを「奇跡だ」と考えてほしいのです。
2008年の東京都の調査によると、高校3年生で「性交経験がある」と答えたのは男子、女子ともに45%いました。その一方で、国内の18〜26歳の女性に「子宮頸がんの原因がヒトパピローマウイルスだと知っていますか」と尋ねると、8割近くが「初めて知った」と回答しています。
私たちの病院でも、毎日のように20代、30代の女性が子宮頸がんで受診されます。この年齢で子宮を全摘出した方もいます。中には妊娠初期に子宮頸がんが見つかり、妊娠を継続できず子宮を摘出せざるを得なかった女性もいらっしゃいます。
こうした状況を踏まえ、同じ産婦人科医である妻とも、「若い人にこそ性交渉につながるがんの存在を伝えるべきだ」と話していました。1990年代後半から妊娠する世代と子宮頸がんを発症する年代が重なり合うようになってきています。若年女性に増加している患者数を抑えるため、人としての営みである性交渉を経験する前に正しい知識を広めなければならないと考えています。
今年の6月には、母校の久留米大学附設高校に招かれ講演しました。医学部を目指す生徒も多い高校なだけに、質問が止まらない。充実した時間でした。最近は、大学でも講演しています。
―K発プロジェクトについて教えてください。
「K」には、「啓発」「頸がん」「検診」「熊本」の四つが掛けてあります。熊本大学の学生、大学院生が学部を超え、熊本県、熊本市、地元のテレビ局と協力して子宮頸がん検診の啓発に取り組むプロジェクトです。
活動としては、保健学科の看護学生が、子宮頸がん検診ができる病院マップを作成し、配布しています。薬学部が主催するセミナーでは、高校生向けに、実際のがん細胞を使った実験から子宮頸がんの予防教室を開いています。医学科の男子学生は「男塾」と題して、産婦人科のクリニックを実際に訪れ、女性が診察で感じる精神的負担を学んでいます。また、ビニールハウスを借り、地域の男性に向けて子宮頸がんのセミナーを開いたこともあります。
以前、私の授業を聴いてくれた3人の女子高生が「子宮頸がんについてもっと知りたい」と私の研究室に来ました。今年の薬学部主催のイベントでは、その彼女たちが大学生となりスタッフとして参加してくれました。
「時間を惜しまず、勇気を持って正しい知識と情報を若い世代に広く伝えれば、彼らは自分のために正しい判断をし、さらに自ら行動を起こす」。これが、私が今までの活動から学んだことです。これからは、若い世代の力で子宮頸がんが減少していくことを願っています。
熊本大学大学院生命科学研究部 産科婦人科学
熊本市中央区本荘1-1-1
TEL:096-344-2111(代表)
http://kumadai-obgyn.net/