待機増加、ドナー不足の問題解決に取り組む
心臓移植の待機患者が年々増えているという。ドナーを含め、現状の医療はそれに追いついているのだろうか。アメリカでの臨床経験が豊富な九州大学の塩瀬明教授に、日本における心臓移植の課題や今後の可能性について聞いてみた。
―待機患者数が増えているそうですね。
2010年に植込型補助人工心臓が承認されてから、「bridge to transplant(BTT)」、いわゆる橋渡し治療として補助人工心臓が臨床応用されました。
これにより、待機患者のQOLが上がり、安定した状態で移植を待つことができるようになったことが大きいですね。国内の症例数は2010年ごろまで1桁だったのが、近年は50症例を超えています。
ただ移植は、ドナーがいないことには始まりません。オーストラリアやイギリスでは、心停止のドナーからの提供がスタートし、止まった心臓であってもうまくサポートすれば使えることがわかってきました。日本の場合も、法的な考慮を加えつつ国全体で進めていけたら、一つのオプションとして、可能性はあると思います。
また地域性という問題もあります。心臓移植は虚血許容時間が4時間以内。アメリカなら空港も多くプライベートジェットを飛ばせるのですが、インフラの整備が難しい日本では、せっかくドナーがいても北海道から九州まで臓器を移動させるのは、時間的に難しいものがあります。
そこで私たちは、ドナーから取り出した心臓を少しでも長持ちさせるため、保護液の研究を進めています。成功すればもう少し移動時間を延ばすことができるかもしれません。
また欧米では、簡易的な人工心肺装置を使って心臓を動かしながら搬送する試みも始まっています。私がアメリカにいた時、肺移植で臨床応用したことがあります。日本でも活用できれば、たとえば九州なら韓国や東南アジアからの臓器提供という道も生まれるかもしれません。
―日米における心臓移植の違いは。
ドナーの数が断然違いますね。アメリカの症例は年間2000例以上で、日本の40倍以上です。
技術レベルは、日本とアメリカで差はありません。ただドナーがいないために、アメリカに渡って移植を受けざるを得ないのです。多額の費用をかけて渡米される患者さんを見ると、「ドナーさえいれば日本でも同じ医療を提供できるのに」と悔しく感じます。
日米では、移植に対しての意識に大きな開きがあると思います。宗教的な違いが背景があるのかもしれませんし、「QOL」に対する考え方が違うのかもしれません。
―待機患者増加の対策は。
今、待機されている方の90%以上が、補助人工心臓をつけて待っています。補助人工心臓を装着後の患者さんの管理は、地域の医療機関が担当。患者さんはごく普通の生活を送りながら、待機しています。補助人工心臓は植込型なので、外から見てもほとんどわからない。仕事をされている方もいるほどです。
われわれは今、11歳未満の小児の心臓移植の認定施設となるべく、日本小児循環器学会に申請、審査が進んでいます。小児の心臓移植が九州でできるようになれば、これまで大阪や東京に出向いていた家族の身体的、経済的負担の軽減につながるはずです。
今はまだ治験段階である「Destination Therapy(DT:補助人工心臓を用いた長期在宅治療)」が始まると、高齢者の方、若くしてがんがあるなど、心臓移植非適応だった方に対する治療の可能性が広がっていきます。
補助人工心臓をつける患者さんはこれからさらに増加していくでしょう。各地域で患者さんの状態を見守る医療機関をもっと増やしていきたいですね。
九州大学病院 心臓血管外科
福岡市東区馬出3-1-1
TEL:092-641-1151(代表)
http://cs1.med.kyushu-u.ac.jp/