働きやすく、やりがいが持てる講座に
―中四国では初めて、埋め込み型補助人工心臓の手術に成功されました。
現在、日本においては、心臓移植希望登録をした待機患者が約500人います。国内の心臓移植はドナーの不足のため、移植の適応を受けてから、実際に移植手術を受けるまでに約3年間の待機期間が必要で、この移植までの待機期間を、補助人工心臓を装着して待機しています。
当講座では、2011年から体外設置型の補助人工心臓の手術を行ってきましたが、体外型は感染や脳血管障害の合併症も多いのが実情です。埋め込み型の実施が待たれていた中、2014年2月に初めて実施し、これまで4例の実績があります。
昨年5月に重症心不全で埋め込み型補助人工心臓の手術を受けられた男性は、同年12月には職場に復帰することもでき、私どもも大変喜んでいます。
現在、補助人工心臓認定施設は全国で40カ所あります。今後は、認定施設で手術を受けた患者さんを、実施施設以外でも管理できるよう「管理施設」を設けるという考え方も新たに出ていますので、認定施設が遠いからと手術を断念していた患者さんには朗報かもしれません。今後も、心臓移植実施施設の大阪大学医学部附属病院と連携をとりながら補助人工手術に取り組んでいきます。
―将来的な動きは。
日本では、補助人工心臓の手術を受けるには心臓移植が前提となっています。しかも、心臓移植の適応とされるにはその基準が大変厳しいのです。
一方、欧米では、重症心不全患者に対する治療として植え込み型補助人工心臓が、最終的治療(DestinationTherapy)として受け入れられ、積極的に進められています。日本でも、最終的治療として、補助人工心臓がその選択のひとつとなるような新たな動きも進んでいます。
もちろん、最終的治療となることで、合併症の問題や、終末期医療、緩和医療など別の課題も生まれてきますが、患者さんにとって生きるための選択肢が増えることは大変良いことだと考えます。
―貴講座の特徴は。
Minimally InvasiveCardiac Surgery(MICS)、ミックス手術と言われる低侵襲の心臓手術に力を入れています。
従来の、約25㌢皮膚を切開して胸骨を大きく切る手術は、患者さんにとって大変しんどい手術でした。現在は、症例によっては7㌢程度の皮膚切開と胸骨を切らずに肋骨の間の切開ですみますので、傷、そして身体への負担も少なく、高齢者への手術も可能となります。
今後は、手術支援ロボット・ダビンチによる手術の準備も進めたいと考えています。
ダビンチでの手術は低侵襲ですが、これまで保険収載は前立腺がんのみ。先進医療で腎臓がん(4月から保険適用)、胃がん、薬事承認も、一般消化器外科、心臓外科を除く胸部外科、泌尿器科、婦人科まででした。
今回、心臓外科についても薬事承認になったので、準備をはじめました。
さらに保険収載までもっていけるよう、関連学会が共同で働きかける動きが進んでいます。
本学附属病院には、すでにダビンチが導入されており、当講座においても、肺がんに対するダビンチ支援手術の実績もあります。そう遠くないうちに、四国においても、心臓外科のダビンチ支援手術を行える体制が整っていくと思います。
また、大動脈弁狭窄症の治療として、経カテーテル大動脈弁治療(Transcatheter AorticValve Implantation:TAVI)にも取り組みます。 胸を開かず、心臓も止めることなく、「人工弁」を患者さんの心臓に装着することができるため、低侵襲な治療法として広がっています。当講座でも、チームを作り、TAVI実施に向けてトレーニングを進めたいと考えています。
―講座の課題は。
外科離れによる人材の確保でしょうか。外科医は、リスクが高いという印象のためか、若い人からは敬遠されがちです。給与面で、インセンティブを与えるのもひとつの方法かもしれません。
若い人もできるだけ働きやすく、やりがいが持てるような講座にしたいと思っています。外科医というのは、自分の努力が患者さんを通してそのまま感じられる、大変手ごたえのある仕事だと思います。医師としては、その手ごたえが強みになるとも思います。
厚労省によると、2015年度の日本人の死因の第1位は悪性新生物で37万人、第2位は心疾患 で19万 9000 人、第3位は肺炎で12万 3000人です。がんは、すべての臓器を合わせての1位ですから、臓器別で見ると、心臓の病気で亡くなる方が大変多いということがわかります。当講座で、ともに、心臓外科のやりがいを感じてほしいと思います。