九州大学病院ハートセンター心臓血管外科 / 九州大学大学院医学研究院循環器外科学 富永 隆治 教授
3月末で退官、福岡和白病院長に
九州大学病院ハートセンター心臓血管外科の富永 隆治教授が3月末で退官し、4月から福岡和白病院院長となった。退官間近となった3月下旬、教授室で、これまでの取り組みや後進への願いを語ってもらった。
―2005年6月の教授就任からおよそ10年。力を入れてきたことは。
循環器外科は臨床の科です。臨床力をつける、実績を上げることに力を注いできました。
九州で一番初めに植込み型補助人工心臓を実施しましたし、九州唯一の心臓移植認定施設として、2005年からこれまでで10例の心臓移植をしてきました。
植込み型補助人工心臓を装着、または心臓移植をした患者さんやそのご家族の会を2年ほど前に始めました。毎回、九州全域から50~60人の方が集まります。本人ももちろんですが、家族も大変な苦労をされている。ですから、お互いに情報交換し合う良い会になっています。
九大病院で心臓移植をした10人も、1人も欠けることなく元気でやっていて、会に参加してくださいます。日本では植込み型補助人工心臓は移植を待つ間のものです。補助人工心臓を使っている皆さんは、移植をされた方の話を聞き、それを目標に頑張ることができます。
そして私たち医療者は、元気に過ごされている皆さんに会うと、やりがいを感じるとともに、携わることができてありがたいという気持ちでいっぱいになります。
今、国内で心臓移植を待っている人は250人を超え、さらに増えている状況です。植込み型補助人工心臓を入れた後の待機期間も長くなり、現在は2〜3年ですが、5年ほど待たないとならない時代も間近かもしれません。ですから、移植医療をもっと推進する必要があります。
一方で、ドナーの数には限界があります。アメリカを中心に始まり、データの蓄積が進んでいる「デスティネーション治療」は、人工心臓を心臓移植までのつなぎとして考えるのではなく、人工心臓で人生を謳歌するという考え方です。人工心臓の性能もよくなってきていますから、このような方法も必要になってくると思います。今の日本では保険収載が認められていませんが、人工心臓でも人生を楽しめる、そんなシステムを作っていくのが夢ですね。
「成人先天性心疾患」という言葉があります。
先天性心疾患は子どもの病気というイメージがあるかもしれませんが、今は65%が成人。手術を受け、成人してからも、弁の入れ替えなどの必要が生じます。
九大病院では、関連病院の福岡市立こども病院で手術をした患者さんが大人になってからの受け皿が必要、ということで、2009年に成人先天性心疾患の専門外来を設けました。小児科、循環器内科、循環器外科がチームをつくり、うまく機能しています。
医療の進歩でかつては手術にも回ってこなかったような子も助かるようになっています。患者さんは九州一円からみえますし、今後も増える一方でしょう。
重度の大動脈弁狭窄症の患者さんの中には、高齢などの理由で、人工心肺を使った通常の手術が困難な方もいます。九大病院はカテーテルを使って弁を入れる「経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)」ができる福岡市内唯一の場所でもあります。
同じように負担が大きかった胸部大動脈瘤の人工血管置換術に代わる「胸部大動脈瘤ステントグラフト術」にも、積極的に取り組んできました。患者さんの負担を減らそうと一生懸命努力してきましたし、今後もやっていってほしいと思っています。
―医学部学生、医療従事者にメッセージを。
昨年開いた日本胸部外科学会定期学術集会でもテーマに掲げた「noblesse oblige(位高ければ徳高きを要す)」を学生には伝えたいと思います。
今の医学部学生は成績がいい。親も裕福な場合が多い。階級社会ではありませんが、いろいろな面で恵まれています。でも、そこで思い上がったら終わり。自分の力を最大限に発揮し、患者さんやその家族、社会のために一生懸命やるべきです。
地位を求めるのもいい、金もうけもいい。でも、それ以上にやるべきことがある。患者を助け、政治や制度がおかしければ発言し、発信していく責務があると思うんです。
医者というのはいい仕事です。やりがいがあって、素晴らしい仕事です。私もこの仕事をしてきたことに悔いがない。九州大学の教授をし、副病院長もやって、本当におもしろかったですね。
もちろん泣くこともありました。でも多くの人の命を救って来れたと思います。医療者の方々はいい仕事をしています。誇りを持ってやっていってほしいですね。
私は4月から福岡和白病院(福岡市)の院長です。「身体が動く間は、外来も手術もさせてください」と伝えています。地域医療のために、働くだけ働きたいんです。