20世紀とは大きく変化 リウマチの"今"を先導する
国内の関節リウマチの患者はおよそ70万人。「不治の病」は今、「コントロールできる病気」になった。この分野で世界をリードする産業医科大学医学部第一内科学講座の田中良哉教授は「治癒も見えてきた」と語る。
―リウマチ治療の変遷について教えてください。
かつて、関節リウマチは治らない病気とされていました。関節の炎症を抑えるために抗炎症薬であるステロイドホルモンを使っていましたが、痛みや腫れが、ある程度、緩和されるだけ。その後、病気の背景に免疫の異常があるとわかり、1999年、免疫抑制薬である合成抗リウマチ薬「メトトレキサート」での治療が始まりました。
メトトレキサートだけでは十分ではない場合は、関節の炎症を起こす"敵"である腫瘍壊死因子(TNF)やIL-6といったサイトカインをピンポイントに攻撃する「生物学的製剤」を併せて使います。
生物学的製剤は分子量が大きいため皮下注射か点滴しか投与方法がありませんでしたが、5年前、この薬との相似性が非常に高い内服薬「JAK阻害剤」が登場したことで、その課題も解決。これらの治療の進歩で、日常生活が可能な「社会的寛解」だけでなく、疲れやすさなどを感じることもない「心の寛解」も目標に入れられるようになっています。
ただ、どの薬にも副作用があります。免疫を抑制するため感染症にかかりやすくなる患者さんもいますし、内服薬によって肝臓や腎臓に障害が出る方もいます。
そこで、私たちは、入院でスクリーニングをした上で薬を処方。その後も毎月血液検査や診察で、効果と有害事象の有無を検証しています。そうすることで初めて、安全かつ有効な治療が実現できるのです。
―今後の注目は。
薬を中止できるか、ということです。患者さんは、必ず言います。「この薬は、ずっと使い続けなければならないのでしょうか」と。
私たちの研究で、生物学的製剤によって半年以上深い寛解を達成できれば、その後、この薬の投与を休んでもその状態を保つことができる、すなわち「バイオホリデー」が可能だとわかりました。
さらにバイオホリデーを維持すれば併用するメトトレキサートも休薬できる。薬を全く飲まず、点滴も注射もせずに寛解の状態に誘導する「ドラッグホリデー」が見えてきているのです。
私たちは、世界に先駆けてこの研究に取り組み、可能性を提唱してきました。原因そのものはわからずとも、治癒に導ける可能性が出てきています。
―産業医科大学の第一内科はリウマチ以外の自己免疫疾患の分野でも注目を集めています。
関節リウマチの治療は大きく進歩しましたが、それ以外の免疫疾患についてはまだ不十分。その治療法開発にも力を入れています。
その代表的なものはリウマチ性疾患で指定難病の一つ「全身性エリテマトーデス」。主な治療法はステロイドホルモンですが、「ムーンフェイス(満月様顔貌)」になったり、骨が折れやすくなったりと副作用が複数ある。そこで、ステロイドに代わる薬を開発中です。
2017年には生物学的製剤「ベリムマブ」が国内でも使えるようになりました。ほかにも、いくつかのサイトカインや細胞内のシグナル伝達物質を標的とした新薬の治験が世界で進められ、その多くに私たちが関与しています。
今、リウマチなど自己免疫性疾患の治療薬が何種類も出てきています。それに伴い、医師が「この患者さんには、どの薬を使うのが最も良いのか」と判断に迷う場面も増えてきました。
そこで、患者さんのリンパ球や遺伝子を調べ、最適な治療薬を見つけ出す手法の研究にも取り組んでいます。「プレシジョン・メディシン」を自己免疫疾患の分野でも―。私たちの大きなテーマの一つです。
産業医科大学医学部第一内科学講座
福岡県北九州市八幡西区医生ケ丘1-1
TEL:093-603-1611(代表)
https://www.uoeh-u.ac.jp/kouza/1nai/intro_j.html