医局員と次のシーズを探求
ー教授になられて5年が過ぎましたね。
教授職は5年ごとに区切りがあるとよくいうようです。振り返りますと早いもので5年半、2期目となりました。
当講座は、リウマチ・膠原病内科、内分泌・代謝内科、脳神経内科の3つのグループの複合体で、医局員も約50人と大きな組織です。ですからコミュニケーションを大切に、風通しの良い運営を心がけてきました。
この5年間で、それぞれのグループや個人が、どういう方向で何をやりたいかがわかってきました。次の5年間では、それぞれの思いや能力をどう伸ばしていくのかを大事にしていきたいと思います。
現在、地方大学の医学部は、臨床、研究、教育のいずれにおいても、求められるレベルがより高くなり、個々の業務内容も複雑化しています。医局員は全員で頑張っていますし、個々人の適性に応じての役割分担など、柔軟に対応していきたいと思います。
ー4月21日から3日間「第60回日本リウマチ学会総会・学術集会」が横浜市で行われました。貴講座も参加されましたがその成果は。
本リウマチ・膠原病内科学講座の歴史の中で、かなり成果が出た学会だったと思います。当講座の演題は29とその数も多く、質も高かったと評価しています。皆が活躍してくれましたし、私も2つのシンポジウムで座長を務めました。私以外にも、シンポジウム座長を1名、シンポジストも3名が務めました。これも5年間のベースがあって、結果に結びついたと思います。
また、現在、大学医学部での研究はトランスレーショナル研究(TR:橋渡し研究)と言われるように、臨床の場をたえず想定しながら新しい医療を開発し、その有効性や安全性を確認して、日常の医療へ応用していく事が求められています。臨床と研究が双方向で作用し合うことが大切です。私たちもそのような研究を目指しています。
ー学会での特徴的な演題は。
基礎研究、臨床研究、トランスレーショナル研究に加え、地域の特性に考慮した、長崎市でのリウマチ診療の医療連携について発表することができました。関節リウマチ(RA)は早期診断が可能となり、治療方法は複雑化、高度化していますので、地域の拠点病院における対応の重要性が増しています。有病率は約100人に1人で、患者数は多い疾患です。が、リウマチ専門医が不足しているのが現実です。
2004年度に施行された新医師臨床研修制度の導入後、本学も含めた地方の国立大学への入局者数の減少によって、大学の医局から地域医療機関への医師の派遣の問題も浮上しました。これが、地域医療機関との連携を後押しする一因にもなりました。
2010年から、長崎市内の医療機関とのRA連携を開始し、患者さんのフォローを両方で行うシステム(ダブルフォローアップ)にしました。5年以上が経過した現在では、約45の連携施設とともに150人以上の患者さんのダブルフォローアップを行っています。施設の一部ではICT(情報通信技術)を活用した、長崎地域医療連携ネットワークシステム(あじさいネット)による情報共有も行っています。
また、長崎県五島市では、トランスレーショナル研究の足がかりとして、特定健診・動脈硬化健診と連動する形でリウマチ検診を2年前から開始し、地域のリウマチ専門医への受診を勧めるシステムを取り入れ、学会ではそのことについても報告しました。
̶講座の今後の取り組みは。
今年の4月には本大学院の組織改編があり、当講座は、「先進予防医学講座」という名称となりました。これまでの講座運営と比べて方向性が大きく変わったということではありませんが、金沢大学、千葉大学との共同大学院に参画します。
病気になるかどうかにはその人の持つ素因と環境要因が関わります。病気になる前に、遺伝子、環境因子、生活因子によるリスクがわかれば、個別に予防、対策をすることが可能です。さらに、治療が高度化している現在、疾患の発症予測や重症度予測の重要性は増しています。当講座は、米国・オバマ大統領の演説で知られるようになった精密医療(PrecisionMedicine)に近い考え方で、そのさまざまな因子の相互作用も研究して行きたいと考えています。先ほど述べた、長崎県五島市のリウマチ健診も、その一環と位置付けています。
国立大学法人医学部は、臨床、研究、教育、医師確保と課題をたくさん抱えています。時間の制約は厳しいものがありますが、私たちは、大学の研究機関の医師として、次の医学のシーズ(種)を見つけるために、研究の重要性は十分に認識しているつもりです。これらに関して、医局員のモチベーションを高め、維持することも、私の大事な役目の一つだと考えています。
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
長崎市坂本1の7の1
http://www.mdp.nagasaki-u.ac.jp/