産業医科大学医学部 第一内科学講座 教授 田中 良哉
産業医科大学第一内科学は「ベッドサイドからベンチ、ベンチからベッドサイド」をモットーに、臨床に直結したトランスレーショナルリサーチを行なっている。膠原病・リウマチ性疾患の世界的権威で第10回欧州リウマチ学会・年次集会(EULAR 2009) では日本人初のEULAR award を受賞している田中教授に、第一内科学についてうかがった。
産業医大の第一内科は昭和54年に開設されました。初代が東大から来た鈴木秀郎教授、2代目が江藤澄哉教授で、平成12年から私が3代目の教授になりました。全身を診る内科ということで免疫疾患、感染症や内分泌疾患、糖尿病・代謝疾患と幅広く診ています。
文科省に届けている講座の受け持ち教科は、感染免疫、内分泌代謝、血液となっています。
現在、色々な臓器に細分化が進んでいる現状とは全く反対の方向で、いわゆるエビデンス・ベースト、またペイシェント・オリエンテッドに全身疾患的内科疾患を診るというスタンスで取り組んでおります。
私自身は膠原病、リウマチ性疾患が専門で、それらの病気を通じて全身を診るということをやっています。例えば膠原病の場合、関節や筋肉のみならず、神経、呼吸器疾患、循環器、消化器といろんな臓器に障害が出るわけですから、必然的に全身を診る必要があります。
欧州リウマチ学会では、産業医科大学からこの5年間で4人表彰されました。これは世界的にもこの大学だけで、特筆すべきは、そのうちの3人は基礎的な研究においての表彰だということです。
つまり私たちは、全身を診る内科的疾患の診療とともに、むつかしい病気の治療を目指した研究も行なっているということです。
私たちの研究は特に、免疫、自己免疫、代謝の研究を中心にやっているわけですが、単なる研究ではなく、最終的には治療に結びつくようにモチベーションを高めています。そういった部分が評価されて受賞に至ったのだと思っています。
大学の医局なので、診療とともに研究と教育に力を入れていかなければならないと思っています。特に診療に関しては全身疾患を診ますので、これからはより若い方々にプライマリ・ケア、ジェネラリストを目指してもらいたいですね。
研究については臨床をモチベーションとした研究であるとともに臨床に戻すことを目的とした研究をやってほしい。例えば、昨年リンパ球のシグナル分子であるJAKに対する阻害薬がアメリカと日本で同時に発売されました。これはリウマチの飲み薬で、バイオ製剤と同じぐらいに効果があります。私たちの長年の研究に基づいたもので、リンパ球、特にリウマチの活性化のメカニズムを研究するにあたって、JAKなどのシグナル分子が重要な役割を担っているので、それを阻害すればどのように効くかを研究してきました。それが今、薬剤になって多くの患者さんの服用に至っているわけです。ただ副作用がないわけではありませんので、患者さんから得た情報を基に副作用を減らすにはどうすればいいかを考えていかなければなりません。
教育というのは、臨床と研究の架け橋だということをしっかりと見据えて、それの出来る学生、大学院生、あるいは若い先生を取り込んでいきたいと思っています。
第一内科学の今後の取り組みとしては、臨床に根差した研究、研究成果を生かせるような臨床をしっかりやっていきたいと考えています。今までも新しい薬剤の開発、評価そして臨床への還元を中心にやってきましたが、それをさらに高めていく必要があります。関節リウマチだけでなく、それ以外の全身性エリテマトーデスをはじめとした多くの膠原病疾患、骨粗しょう症、糖尿病といった代謝疾患、内分泌疾患にまで拡げて、よりむつかしい病気を克服できるような研究と診療を続けていきたいと思いますね。
例えばリウマチの場合、原因が一つではないと考えられていますので、一つの原因だけを治療しても良くはならないと思っています。悪化するプロセスのどこかを断ち切ることによって原因が分からないままでも治すことができるのではないかと最近考えられていますので、そういうプロセスを遮断するという治療に取り組んでいきたいと考えています。
学生に望むことは、1つは夢を持ってほしい、2つ目は決してぶれない軸を作ること。3つ目は、医者になるのなら全身を診ることができるようになってほしい。最後に、研究も臨床も出来るような人になってほしいですね。一生患者さんを診るのも重要ですが、何年間か懸命に研究した時期があれば、多分おじいちゃん、おばあちゃんになって人生を振り返った時に、あんな時期もあったなと感じられると思います。
常々医局員には、「何事も心を込めてやれ。人と話をする時も臨床をする時も心を込めてやるように」と言っています。(聞き手と写真=新貝)