いいチームの条件は責任を共有できること
―チームが機能するために、どのような工夫を取り入れていますか。
リハビリを終えても、元どおりの生活に戻れるとは限りません。
以前と同じではないかもしれないが、可能な限り近づけて社会に戻っていただく。患者さんとそのご家族も含めて「生活を再構築」するのが当院のテーマです。
病気や外傷をきっかけに障害をもつと、閉じこもってしまう人が少なくありません。家庭や職場で自分の存在意義を感じられなくなり、心が折れてしまうのです。リハビリによって体はある程度回復しても、心の回復が追いつかなければ、本当の社会復帰は難しい。
ですから、当院が最も重視しているのは「心の回復」です。臨床心理士を含めたチームが、生活の再構築に向けて一丸となっています。
私が考えるいいチームとは、役割を明確に分担しつつ、「責任を共有できる」チームです。
「シェアード・リーダーシップ」という考え方があります。「一人一人がリーダーである」という視点に立ち、職員たちの意見ができるだけ反映される組織づくりを目指しています。いつ、誰が決めたのか分からないことをいきなり守れと言われても、簡単には受け入れられないでしょう。
プロセスの共有が大切だと思うのです。頻繁に会議を開いて、みんなで検討しながらアイデアを形にします。
「三人寄れば文殊の知恵」と言いますがシェアード・リーダーシップも、主に三つの役割で成り立っています。
部署ごとに、主にアイデアを出す人、会議で決定したことの進捗をチェックする人、院内に広報する人がいます。互いにフォローすることで、やるべきことをうっかり忘れてしまったり、「伝言ゲーム化」して誤った情報が広がったりするのを防ぎます。
仕組みがそれぞれの部署で機能していれば、ぶどうの房のように連なって、「病院全体の共有事項」になるはずです。
1人のカリスマが職員を引っ張っていくタイプの組織は、現代の医療機関には、あまりそぐわないのではないかと思います。私が理想とするリーダーは「ビジョナリー・リーダーシップ」を発揮できる人。この病院が目指す方向性や、チーム医療のあり方、将来の夢を具体的に伝え、職員と共有できるリーダーです。
そのために私が心がけているのはラポール(信頼関係)のスキルを磨くこと。ときには若手の職員から、私たちからすれば、突拍子もないと感じる意見が飛び出すことがあります。
でも、バイアスがかかっていないからこそ、中には患者さんの本当の気持ちを反映したアイデアが含まれていることもある。それを見逃さないためにも、聞き手としての能力を高めておく必要があります。
―これまでの転機は。
当院の組織づくりが本格化したのは、2013年、新築移転を機に病棟を一つのチームとして捉える「フロア・マネジメント」システムを導入したことです。
三つの病棟と外来、計四つのチームに分け、それぞれに専任の「フロアマネジャー」を置いています。チームごとに在院日数や稼働率など、あらゆる数値を日々モニタリング。「今、病棟で何が起こっているか」をミーティングで確認します。
毎日データを追いかけて共有していれば、「知らないうちに数字が落ちていた」とあわてることもありません。変化を早く察知し、対策を講じることができます。
昨年起こった熊本地震は、組織の効率化を加速させる大きな転機になりました。急性期病院の患者さんは、平時と比較して120%超。私たちも患者さんを受け入れるために、混乱の中、チーム医療の体制づくりを強化しました。
職員たちも被災者ですから、中には避難所から通勤し、仕事が終わったら自宅の片づけに向かう者もいました。大変な思いをしたのですが、「地域のためにがんばろう」という一体感は、結果的にプラスの面をもたらしたと思います。
熊本県は「復興リハビリテーションセンター」を設置しており、当院も仮設住宅などを訪れ、高齢者の生活不活発病や介護予防に関する指導、ケアに取り組んでいます。
私たちの目線は「地域のためのリハビリテーション」を提供できる組織づくりへとシフトしています。もっと地域に溶け込み、自立したい、自分らしい生活を送りたいと願う気持ちに寄り添いたい。そんな「リハビリテーション・マインド」を広く届けていきたいと考えています。
今年、ハローワークとタイアップして、障害をもつ人の就学、就労を後押しするセンターも開設予定です。社会に戻るだけにとどまらず、地域の経済活動にもつながっていけばと願っています。
また、「日本で一番の地域包括ケアシステムをつくろう」との合言葉のもと、行政やさまざまな企業とのミーティングを重ねています。
地震で痛感したのは産業が行き詰まると、人が去ってしまうという事実です。そもそも日本の人口は減少に向かっていくのですから、医療や介護を守っても、誰も住まない町になってしまっては意味がない。産業が持続して、若い人たちが安心して暮らせる環境があって初めて、真の意味での地域包括ケアが完成すると思うのです。
―精力的に活動を継続できる理由は。
回復期リハビリテーション病院という存在は、まだまだ認知されていないと感じています。
急性期医療や看取りは話題に上ることが多いけれど、その間には生活を取り戻すためのリハビリテーションがある。どろどろとした感情が入り混じる側面もあり、人生そのものを映していると言っていい。
「社会から必要とされる存在」として、しっかりとリハビリテーションを位置づけ、地域から認めてもらいたいと思っています。
移転に伴い熊本託麻台病院から「熊本託麻台リハビリテーション病院」と改称したのも、そんな思いがあったからです。リハビリに携わる者としてのプライドが、私たちを突き動かす原動力です。
医療法人 堀尾会 熊本託麻台リハビリテーション病院
熊本市中央区帯山8-2-1
TEL:096-381-5111
http://www.horio-kai.or.jp/020takuma/hor020.html