救急医療とがん治療で京都府民・市民を支える
京都府内にある三つの赤十字病院のうちの一つ、京都第二赤十字病院。同院に約30年間勤務し、3月末で院長職を退いた日下部虎夫名誉院長に話を聞いた。
◎100年余の歴史
日本赤十字社京都支部は1912(明治45)年、常設救護所を現在の上京区に開設。1926年(大正15)年、25床の入院設備を設け、日本赤十字社京都府支部療院と改称しました。
1934年(昭和9)年、規模拡張のため東山区の東福寺畔に新築移転し、日本赤十字社京都支部病院(現:京都第一赤十字病院)に。しかし、支部療院(上京区)も、地域住民の強い要望で診療を継続することになりました。この存続した療院が、現在の京都第二赤十字病院です。
◎救急医療の歴史
当院の救急医療の歴史は古く、1951(昭和26)年に設けた国内初の救急専用病室(5床)が始まりです。
1956(同31)年、京都第二赤十字病院救急分院(40床)を京都市中京区御池通に開設。1964(同39)年には100床に増床しました。1978(同53)年、救命救急センター制度の発足で認定施設に選ばれたことを受け、翌年には分院を廃止。府内初の救命救急センターを院内に設置しました。
60年近い歴史の中では、設備の老朽化、救急医の退職によるマンパワーの低下により、低迷した時期もありました。
そこで、2004年には当時の院長が「かつてのように勢いのある救急科を復活させたい」と、当院の隣にあった京都市梅屋小学校跡地を借り受け、救命救急センターを中心とした新病棟を新築。病院のシステムを最新のものに入れ替え、救急科専門医も増員しました。
現在、救命救急センター受診患者数は年間2万7000人以上、救急車搬入数は7000台以上と、京都市内の救急医療の中心的な役割を担っています。
◎チームで取り組むがん診療
救急医療と並ぶもう一つの柱はがん診療です。
2007年、地域がん診療連携拠点病院として承認されてからは、各診療科の医療のレベルアップに努めながら、緩和ケアセンターでは毎週木曜日にキャンサーボードを開いたり、最新の緩和ケアに関する講義、講演などを開催したり、熱心に取り組んできました。
しかし、京都大学、京都府立医科大学という二つの大学がすぐそばにある環境では、大学病院と同レベルの高度先進医療を目指しても、マンパワーにも設備投資にも限界があります。当院が目指すべきがん診療の在り方をもう一度考える必要があるのです。
大学病院で実施されている高度先進医療と差別化を図るには、各診療科の医師、メディカルスタッフの連携を強化し、チーム医療を充実させることが必要だと考えました。そこで2016年から、副院長、各科の診療部長などで構成する「がん診療連携推進室」をつくって組織を立て直しているところです。
推進室のメンバーは京都府が運営する「京都府がん診療戦略会議」に出席し、会議での報告事項・検討事項を持ち帰って報告。院内の「化学療法レジメン委員会」をはじめ、さまざまな委員会と連携・情報共有を図っています。
がん診療を担う病院の使命は、スタートの時点から、急性期のCURE(治癒)と終末期のCARE(介護)を同時進行させることです。診断から終末期医療まで、患者さんとそのご家族に信頼してもらえるような診療体制を整えたいと考えています。
◎新病院建設に向けて
私がこの病院に着任してから約30年になります。この病院での臨床研究の業績によって、さまざまな学会の名誉会員を務めるようになりました。医師としての仕事がしやすいだけでなく、職員たちの意識とスキルが高いことが当院の自慢です。
長い歴史の中で京都府民・市民から求められ、愛されてきた病院です。今後も、地域の皆さんに質の高い医療を提供し続けるためには、新病院の建設も視野に入れなければなりません。
A棟以外の建物は、すべて築40〜50年。地震発生時には危機的状況が予測されます。2012年に耐震補強工事を実施し、安全面の問題はクリアしたものの、このまま増改築を繰り返していては、ハード面の非効率さが改善されることはありません。
三つの建物からなる病院内の動線は長く、多くの人員を配置しなければならない仕組みになっています。そうした非効率な環境の中で、職員たちに「がんばれ」といっても、モチベーションは上がらないでしょうし、何より患者さんにとって大変不便なことです。
新病院建設については、新棟建設準備(将来計画検討)委員会を設置して検討してきました。ただ、当院は京都市の中心部にあり、土地も狭いため、建て替えや増築が思うように進みませんでした。
そんな中、当院北にある京都府警察本部別館の移転が決まりました。その跡地に新築移転できないかと考え、現在、府知事に中・長期計画案の認可を申請中です。了承を得ることができれば、新病院建設に向けた準備を進めるつもりです。
新病院には、屋上ヘリポート、小児三次救命救急センター、健康長寿支援センター、外来日帰り手術センター、入院サポートセンターなどを設け、広域災害拠点病院、感染症対策拠点病院としての機能も充実させたい。大学病院ともうまくコラボレートして、どこにもないような、いい病院をつくろうと、職員たちと話しています。
◎今後の取り組み
4月からは名誉院長となりました。心残りなのは、私の専門の小児整形外科で後継者の育成がなかなかうまくできなかったことです。今後は、今までよりも少し時間がとれるので、後継者育成に力を入れていきたいと思います。
また、当院の隣には、前任の院長だった澤田淳名誉院長がセンター長を務める「京都市保健医療相談・事故防止センター"京(みやこ)あんしんこども館"」があります。そのセンターをはじめ、幼稚園や保育園、小学校などに出向き、小児整形外科の発達相談や、運動機能相談などのお手伝いをさせていただきたいですね。
一時期は健診の普及によって減少傾向にあった小児の先天性股関節脱臼が、最近の調査では増加傾向にあるともいわれています。この問題についても、健診システムの見直しを含め、保健センターに働きかけていきたいと思います。
日本赤十字社 京都第二赤十字病院
京都市上京区釜座通丸太町上ル春帯町355-5
TEL:075-231-5171(代表)
https://www.kyoto2.jrc.or.jp/