役割を理解することが大切です
JR高知駅から西に、土佐くろしお鉄道宿毛線とバスを乗り継いで2時間半のところに、高知県立幡多けんみん病院がある。橘壽人院長に医療の現状や南海トラフ地震への備えなどを中心に話してもらった。
当院は旧高知県立西南病院と県立宿毛病院が合併し、1999年4月にこの地に開院しました。病床数は355床。18の診療科があります。
人口およそ8万6千人の幡多地域(宿毛市、四万十市、土佐清水市、大月町、黒潮町、三原村)を医療圏とし、中核病院として他の医療機関や保健福祉施設および介護施設との連携を深め、この地域内でほぼ完結できる良質な医療の提供を目指しています。
特に求められているのは、がん疾患や重症疾患に対する高度医療の提供、あるいは内科・循環器・脳血管疾患、外傷など、救命救急診療あるいは産科・小児科診療です。2012年4月からは、地域がん診療連携拠点病院にも指定されました。
■他の医療機関との連携
医療連携についていえば、競合する医療機関があまりないため、それぞれが役割分担をわかっていますので、うまくいっていると思います。住民にはわかりやすく、かかりやすい地域じゃないでしょうか。
でも苦労はもちろんあり、例えば産婦人科は当院と四万十市に一つずつありますが、その東隣は高知市にしかありません。西側も愛媛県までありません。そのような状況を高知大学も理解してくれ、幡多地区の住民のために医師確保をがんばってくれている状況です。ここの医療が続かなくなると、住民は何時間もかけて高知市内に出向くしかありませんからね。
■高知の医療の将来
若い医師が高知に残ってくれず、慢性的な医師不足で、地域偏在もあるし科の偏在もあって苦労してきましたが、これから、大学や行政などと一緒になっての取り組みが実を結んできそうな兆しが見えています。それを期待しているところです。さらにはそれぞれの医療機関が、自らの役割を認識し合い、連携を深め、急性期から在宅まで、住民の方がそれぞれの地域で安心して過ごせることを目標に「ALL高知」で地域医療に取り組んでいる姿を期待しています。
■職員に望むこと
臨床機能的には、二次医療圏と呼ばれる中央から離れたところでも使命感を持ち、なるべくこの地域で医療を完結できることをめざしたい。職員には負担をかけるかもしれませんが、急性期から在宅まで、救急を含めてがんばろうといい続けています。
さらにはほかの中小病院とうまく機能を分かち合えるようにIT化を進め、情報交換を積極的にやっていますし、当院のさまざまな研修会にもすべての医療機関に声をかけ、どんどん参加してほしいと呼びかけています。
■住民の集える催しを
地域に向けても、ミニコンサートやクリスマスコンサート、あるいは院内外で当院主催の医療公開講座を開催し、近隣の三つの中学校でがんの訪問授業を行いました。今後も引き続いて、年に2、3校にお伺いし、がんの実態と予防策、検診の大切さ、そしてがんとの向き合い方を伝えていきたいと思っています。
南海トラフ地震に常に備えています
南海トラフ地震に対しての危機感は、日常的に住民も私たち医療者も、他の県の方より強いと思います。
備えにしても、食料や水、電気など、一週間はここでまかなえるようにしてあり、敷地内に地下発電施設や、井戸水を真水に変える装置、そして災害棟も設置しているところです。
それに加えて、当院だけでなく地域の医療機関や行政、救急隊などと、通信や救護の訓練をやり、顔の見える関係をつくっています。大災害時に医療技術を生かそうとすれば、情報の共有が重要ですからね。