期日:7月20 日(日) 於:ふくふくホール(市民福祉プラザ/福岡市)
福岡=7月20日、福岡市中央区のふくふくホールで、日本最大規模の乳がん患者会、あけぼの会主催の第15回医療講演会「乳がんを超えて生きるために」が開かれ、会員を中心に210人が集まった。
本稿では勝俣範之・日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授の基調講演「がんの放置療法はない―抗がん剤を正しく知ろう」についてレポートする。(大山)
勝俣教授は、『患者よ、がんと闘うな』などの一連の著作で知られる近藤誠医師・近藤誠がん研究所所長のがん理論についての批判で知られる。
近藤所長の主張(以下、近藤理論)は主に、①がんは〈がんもどき〉と本物のがんに分類され、がんもどきは転移しないので治療の必要はなく、本物のがんは必ず死ぬので治療しても無駄、②抗がん剤は効かない。抗がん剤のデータはねつ造である、③ゆえにがんの放置療法を提唱する、など。発行部数が100万部を超える著作もあり、がん治療の民間療法分野では突出した影響力を持つ。
講演会には210 人が参加。テレビカメラの取材も入った。②あけぼの会恒例の『Thank You for life!』を参加者で合唱
あけぼの会恒例の『Thank You for life!』を参加者で合唱。
講演会終了後、勝俣教授との記念撮影。
著書販売会も開かれ、勝俣教授の前にはサインを求める列が。
勝俣教授はまず、超早期がん(がんもどき)も進行がんになる可能性があること、進行がんについても「治療が無駄」ではないと、医学会の常識や自身の長年の経験をもとに近藤理論について反対意見を述べ、さらに近藤所長の「抗がん剤データはねつ造」という主帳についても自身が行った検証結果を発表した。
近藤所長が根拠とする英語論文を丹念に検証した結果、結論が誤りであることを確認した勝俣教授は、近藤所長が自説に沿った結論を恣意(しい)的に導いている可能性を指摘。そのほか、近藤理論を大きく取り上げるマスコミの姿勢や、表だって近藤理論を批判しようとしない医療界へのいらだちも吐露した勝俣教授は、改めて「近藤問題から我々は何を学ぶべきなのか」と、今後のがん医療に向けた提言を行った。
忙しい外来診療、治療計画を明示されない抗がん剤治療、さらには冷たい余命宣告など、日本のがん医療は腫瘍内科医の不在も含めて欧米より30年遅れていると指摘した勝俣教授。
「がん治療は標準治療を知ったうえで良い味方(医療者、家族、患者内)を見つけることが大事」と述べた勝俣教授は、根拠に基づいた治療を受けQOL(生活の質)を向上させるためにも、抗がん剤だけでなく緩和ケアも視野に入れた治療を選択する道もある、とがんと上手につきあうためのノウハウを提言した。
講演後、本紙の取材に応じた勝俣教授は、「医療界で近藤さんの主張内容はマイノリティ。近藤さんが感情的になるので相手にしないほうがいいという雰囲気が医療界にはある」と述べ、「近藤さんのような理論が受け入れられている下地には医療に対する不安や不信感がある。医療の側が正しい情報を積極的に提供しなければならない」と指摘した。
さらに、「近藤さんが違法行為をしているわけではないので厚労省は動けない。現実的には、裁判で決着をつけるべきでしょう」と、今後、司法の場で近藤所長の主張について争う可能性も示唆した。