九州医事新報社 - 医療・医学の〝今〟を伝えて62年

新専門医制度に柔軟に対応 多様化するキャリアパスと育成

長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 先進予防医学共同専攻(第一内科)川上 純 主任教授 ( かわかみ・ あつし)1985年長崎大学医学部卒業。米ハーバード大学ダナ・ファーバーがん研究所、長崎大学大学院展開医療科学講座(現:先進予防医学共同専攻)准教授などを経て、2010年から現職。  新専門医制度開始から約2年。制度改革によって医師のキャリアパスが多様化している。長崎大学第一内科では、川上純主任教授が中心となって、若手医師のキャリアパスサポートシステムを構築している。 ―現在のシステムについて。  2004年に新しい臨床研修制度がスタートして以来、私たちはいち早く若手医師のキャリアパスをサポートするための教育システムづくりに取り組んできました。それが臨床を主体とした「クリニカルエキスパートコース」と、研究を主体にした「アカデミックエキスパートコース」です。 近年、臨床と研究の垣根が低くなり、内科医に求められるキャリアパスも非常に多様化しています。大学院における研究テーマも基礎研究から、患者さんの診療情報を元にした臨床研究、その橋渡しをするトランスレーショナル研究が盛んになってきています。そのような時代の流れに合わせて、若手医師のキャリアパスサポートシステムも、さらに臨床と研究を融合した内容に変える必要があります。 2018年度に新しい内科専門医制度が導入されました。新制度では医学部を卒業して2年間の初期研修を終えた後に、専攻医として3年間の内科専門研修で基本領域を修了。内科専門医を取得し、さらに1年間サブスペシャリティ専門研修を経て、その専門医試験を受けることができるようになります。 サブスペシャリティとは、内科の基本領域の中でさらに細分化された領域で、第一内科にはリウマチ・膠原病内科、内分泌・代謝内科、脳神経内科があります。 現在の医療は高度化が進むと同時に、各医療分野で細分化が進んでいます。新しい内科専門医制度はそのような社会的なニーズに合わせた医師を育成することを目標に導入されたものであり、長崎大学病院としては専門医制度の変更に対応し、より良い内科医、より良い専門医になってもらうためのサポート体制を整えています。 ―今後、内科専門医に求められるスキルとは。  ガイドラインから外れた症例に遭遇した場合に、何が重要かを見極める力が求められています。知識を得ることも大切ですが、自分で物事を考える力が重要です。当院での内科専門医研修およびサブスペシャリティ研修では、3〜4年の間に集中して考えるプロセスを身に付けてほしいと思います。 基本的な物の考え方は、さまざまな病気や症例に応用することができます。例えば2015年に当時のオバマ米大統領が一般教書演説の中で用いた「プレシジョン・メディシン」(精密医療)という言葉が、わが国の医療界でも語られるようになっています。現在最も進んでいるのが、がんのゲノム医療ですが、こうした先端医療に携わるためにも、自分自身で考える力を持った医師の必要性を強く感じています。 また、医療のグローバル化も避けて通ることはできません。私が所属する日本リウマチ学会でも最近は口頭発表の30〜40%が英語で行われています。専門医研修を行いながら大学院で研究テーマを決めて学位の取得を目指す環境の中で、グローバルな感覚を身に付けることは、臨床医として必ず役に立ちます。 新専門医制度は始まったばかりですので、私たちの病院や講座でも、実情に合わせながら教育システムを随時変更、改定していきたいと考えています。いずれにせよ、われわれがキャリアパスの明確な指針を示す必要がありますので、新しい教育システム「キャリアパスサポートシステム」をホームページにもアップしたいと考えています。 当科では臨床教育に加え、さまざまな研究にも力を入れており、最近ではクラウドファンディングを用いる関節超音波研究「シンプルな超音波機器の開発」にも挑戦しています。研究は臨床医のスキルアップにつながるので、若い方にも経験してもらえればと思います。 長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 先進予防医学共同専攻(第一内科)長崎市坂本1−7−1☎095―819―7200(代表)http://www.med.nagasaki-u.ac.jp/intmed-1/

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離島医療を支える専門医の育成を目指す

琉球大学病院 光学医療診療部(第一内科消化器グループ)外間 昭 診療教授(ほかま・あきら)1988年琉球大学医学部卒業。琉球大学第一内科、米ハーバード大学マサチューセッツ総合病院留学などを経て、2014年から現職。琉球大学病院光学医療診療部部長兼任。  離島への医師派遣、亜熱帯性気候ならではの風土病やインバウンドに伴う大陸や東南アジアからの輸入感染症対策と、琉球大学の担う役割は大きい。外間昭診療教授に、専門医不足の現状と、離島医療、感染症研究への取り組みを聞いた。 ―離島医療の現状と課題は。  沖縄県には有人の島が47あり、へき地に分類される本島北部に県立の病院と診療所が18施設あります。離島へき地においては、消化器と呼吸器内科の専門医が絶対的に不足しています。現在、沖縄県立八重山病院、沖縄県立宮古病院、北部地区医師会病院の3施設には、消化器内科医と呼吸器内科医を、琉球大学の第一内科からほぼ2年交代で派遣しています。医局員のほとんどが、一度は3施設のどこかで勤務経験があり、第一内科が離島医療の支えとなっています。 ただ、新臨床研修制度が始まって以降、入局者が減っています。医師の育成で定評がある沖縄県立中部病院の存在もあり、沖縄県は初期研修医の人気が高く、毎年150人を数えます。しかし、専攻医を目指す後期研修になると県外に去り、年間100人程度に急減するのが課題です。 ―離島医療の現状を。  私たちは、離島勤務をポジティブに捉えています。生活の利便性などマイナス面をはるかに上回る症例経験が、大きな財産になるからです。離島の病院も、内科専門医や消化器内視鏡専門医の教育病院、教育関連病院になっており、経験した症例はすべて専門医資格申請に必要な症例数にカウントされます。 離島ではどのような内科領域も診る必要があるので、総合診療医の修練にもなります。派遣先で切磋琢磨し、非常に多くのことを経験し、島民の方には感謝され、やりがいも感じる。離島勤務を終えると、人間的にも医師としてもふた回りは大きく成長して戻って来ます。 離島勤務後は本人の希望を聞き、例えば内視鏡診療の国内留学など、全員が平等に勉強する機会を得られる仕組みにしています。 ―疾患の地域特性は。  かつては粗食だったがゆえに男女とも全国一の長寿県でしたが、「26位ショック」というのがありました。2000年に男性の平均寿命が一気に落ちたのです。特に大腸がん死亡率は、青森県と並んでワースト1位です。 米軍基地の影響で、いち早く食の欧米化が進み、生活習慣病が多くなったのが要因。メタボとアルコール性肝がんが、臨床現場で問題になっています。 一方で、胃がん死亡率は全国より低く、大分大学との共同研究で胃の発がん因子であるピロリ菌のタイプが本土と異なることが分かりました。ある離島にしかないD型肝炎も地域特性の一つで、これはB型と一緒に感染するウイルス肝炎です。 来日観光客の増加で、インフルエンザが一年中流行しています。中国で拡散しているウイルス性肺炎も警戒しています。熱帯、亜熱帯の感染症を完全防御するため県を挙げて態勢を整え、大学病院には陰圧感染対策病室8床を備えています。 ―これまでの研究成果は。  感染症の臨床研究は私たちの教室の強みです。代表例は、沖縄県と鹿児島県奄美群島の風土病、糞線虫症治療の解明です。地表に住む線虫がヒトの体内に侵入して住みつき、手術や免疫力が低下する治療がきっかけで一挙に増殖して死に至る疾患です。 第一内科で約30年をかけて取り組み、保虫者を容易に判別する検査法を開発。治験を重ね、駆虫薬イベルメクチンが有効だと突き止めました。この治療薬が保険適用され、保虫者は60歳以上の2万人までに減っています。 現在は、エイズウイルス(HIV)やヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV―1)を背景とした、サイトメガロウイルスの早期診断を中心に取り組んでいます。潰瘍性大腸炎とクローン病が増えている消化器内科では、その専門医を育てていきます。 琉球大学病院 光学医療診療部(第一内科消化器グループ)沖縄県中頭郡西原町上原207☎098―895―3331(代表)http://www.ryukyu-med1.com/

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健康長寿の社会づくり 脳アミロイド血管症を研究

熊本大学大学院 生命科学研究部脳神経内科学講座井上 泰輝 特任助教(いのうえ・やすてる)2004年熊本大学医学部卒業。済生会熊本病院脳卒中センター、国立循環器病研究センターなどを経て、2017年から現職。  ニュースなどで取り上げられるアルツハイマー病の発症要因となるタンパク質「アミロイドベータ」は、脳出血などを起こす脳アミロイド血管症という病気の発症要因でもある。その脳アミロイド血管症の研究で、2019年度日本医師会医学研究奨励賞など、数々の賞を受賞している井上泰輝特任助教に、病気の概要と現在の研究について話を聞いた。 ―脳アミロイド血管症とは。  タンパク質の一種であるアミロイドの中にはいくつか種類があり、その中のアミロイドベータは、最初は単量体ですが、次第に凝集し、線維のナイロンのようなものになります。「アミロイド線維」とも呼ばれ、難溶性で、全身のさまざまな臓器に沈着し、機能障害を引き起こします。  アミロイドが原因となる疾患を「アミロイドーシス」と言います。脳内で起こるアミロイドーシスの一つ脳アミロイド血管症は、脳の血管にアミロイドがたまり脳出血などを引き起こします。同じ脳のアミロイドーシスであるアルツハイマー病の実に90%が、脳アミロイド血管症を発症しています。  アミロイドベータは脳内で産生され、血管を通して脳の外へ排出されます。しかし、加齢によって排出されにくくなり、やがて脳の血管に沈着し、脳アミロイド血管症を引き起こします。脳血管にアミロイドが沈着するのが、脳アミロイド血管症、脳の神経細胞に沈着するのがアルツハイマー病です。 ―治療法は。  アルツハイマー病は病気の全容が解明されていませんが、脳アミロイド血管症も同様に研究段階で、予防や治療法は未確立です。私は脳アミロイド血管症に関心を抱き、10年近く診療と研究に携わっています。研究では、健常者と脳アミロイド血管症の患者さんの脳血管組織から網羅的にタンパク質のデータを取り、コツコツ一つずつタンパク質の違いを調べました。  その中で解糖系酵素が患者さんの脳血管に多く共存していることが次第に分かってきました。アミロイドは単量体で分泌されるのですが、次第に凝集し、溶けにくいアミロイド線維になっていきます。この過程で解糖系酵素を添加すると、アミロイド線維ができにくくなることを見つけました。解糖系酵素がアミロイド線維そのものを「分解」しているのか、線維になることを「阻害」しているのかについては、まだ分かっておらず、現在も研究を進めています。  もう一つ驚いたことに、脳アミロイド血管症に罹患(りかん)したマウスの脳に、解糖系酵素を7日間ゆっくり連続投与したところ、脳そのものにダメージを与えることなく、認知機能が改善しました。研究段階ですが、これには大きな可能性を感じました。 ―今後の目標は。  私は、医師である以上、病態の解明はもちろんですが、患者さんにとって有効な治療法を早く確立させたいと思っています。ただ、新薬の開発は治験などに膨大な時間がかかります。  そこで、既存薬または治験は終わっていても世に出ていない薬などから、脳アミロイド血管症に有効な薬を見つけ出していくドラッグ・スクリーニングと呼ばれる方法も取り入れていきたいと考えています。何千、何万もの種類の薬から、有効なものを探し出すことは非常に大変な作業ですが、実現したいと思います。  アルツハイマー病と脳アミロイド血管症は、表裏一体の病気です。逆に言えば、脳アミロイド血管症の研究がアルツハイマー病の解明につながるかもしれません。  脳神経の病気は患者さんご本人だけでなく、ご家族や介護者の精神的な負担になり、ひいては社会的な損失にもつながります。高齢化社会において健康長寿を目指した社会づくりの一翼を担うことは、研究の大きな目標の一つです。 熊本大学大学院 生命科学研究部脳神経内科学講座熊本市中央区本庄1―1―1☎096―344―2111(代表)http://kumadai-neurology.com/

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中皮腫の診療拠点 早期介入で患者に光を

兵庫医科大学 内科学講座 呼吸器科木島 貴志 主任教授(きじま・たかし)1990年大阪大学医学部卒業。西宮市立中央病院、米ハーバード大学ダナファーバー癌研究所、大阪大学医学部附属病院呼吸器内科病院教授などを経て、2017年から現職。  講座は2002年に誕生。アスベストによる中皮腫が社会的大問題となったのは、その3年後のこと。健康被害が広がった地域の中心に立地する兵庫医科大学が診療の拠点となって10数年。施設内の「中皮腫センター」でも治療に当たる木島貴志主任教授に聞いた。 ―阪神地域における呼吸器疾患の特徴は。  喫煙者や高齢者の数に比例し、肺がんでもタバコに影響される小細胞肺がんや扁平上皮がんが比較的多いですね。さらに間質性肺炎や慢性閉塞性肺疾患(COPD)を合併している、循環器に問題がある、など合併症がある患者さんも目立ちます。また全体的に、女性の比率が高い印象です。 COPDは「取り残された生活習慣病」。潜在患者は全国に600~700万人、うち治療している人は4~5%とも。症状が進むと元には戻らないので、早期発見、早期治療が肝心です。 一番の課題は、開業医との地域連携。COPDの診断に必要な呼吸機能検査ができる施設が少ない上、検査に手間がかかり、患者さんの多い施設はなかなか手が回りにくい。検査の保険点数が低いのも要因の一つです。このあたりは永遠のテーマですね。 肺がんに関しては、ゲノム医療が始まったばかり。分子標的薬と免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法にはそれぞれアドバンテージや課題がありますが、有効な併用法などについて臨床研究が進みつつあります。今後も根拠に基づいた最善の医療を行いたいですね。 ―中皮腫の診療拠点です。中皮腫に関する動向や、今後の展望について。  中皮腫は潜伏期間が30~40年と非常に長く、患者は2030年代ごろまで増え続けると想定されています。年間新患者数は約840人。当院の年間症例数は、内科・外科合わせて100例ほどで、他の施設に比べて圧倒的に多いのが特徴です。 治療の難点は、保険適用の抗がん剤が少ないこと。ペメトレキセドとシスプラチンの併用療法が初回の標準でしたが、ようやく2次治療にニボルマブ(商品名:オプジーボ)が保険適用になりました。奏効率は20数%ですが、他に治療法がない中で期待したいところです。 外科手術に対しての見解は分かれていますが、当院では早期発見できた人に対しては、胸膜だけを取って肺の機能を残す手術を行います。予後は良好ですね。 力を入れているのがアスベスト検診です。当院のほか、尼崎総合医療センター、関西ろうさい病院でも実施しており、月に2回、尼崎の保健所で2次読影も行っています。 2019年2月、二つの研究会が統合され「日本石綿・中皮腫学会(JAMIG)」が発足しました。初代理事長には当院の中皮腫センター長である長谷川誠紀先生が就任。実臨床でのデータ集積に協力していきます。 中皮腫の大部分は胸膜にできますが、腹膜中皮腫や心膜中皮腫、精巣鞘膜中皮腫といったさらに希少な疾患もあります。これらは保険診療で使える薬がないのが現状。保険適用拡大のため、医師主導治験を検討しているところです。 医療福祉に関しては労災または石綿健康被害救済制度の申請が必要ですが、認定には胸腔鏡での生検が必要。最近では胸水を遠心分離機で固めた細胞ブロックを使う検査も可能になりましたが、われわれが目指すのはもっと容易な検査方法です。胸水の細胞診でできないか、研究を進めたいと思っています。 今年は阪神・淡路大震災から25年。当時、大量のアスベストが飛散したといわれており、今後患者が増える可能性も考えられます。また、空中に浮遊するナノファイバーにも危険性があります。動物実験ではすでに中皮腫発症の原因になることが判明しており、人体にも有害なのではと危惧しています。今後もさまざまな動向に注意しつつ研究を進めたいですね。 兵庫医科大学 内科学講座 呼吸器科兵庫県西宮市武庫川町1─1☎0798─45─6111(代表)https://www.hyo-med.ac.jp/department/rspr/

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間質性肺炎の診療 毒ガス傷害の解明に貢献

広島大学大学院 医系科学研究科 分子内科学服部 登 教授(はっとり・のぼる)1987年京都大学医学部卒業。福井医科大学(現:福井大学医学部)病理学講座助手、米ミシガン大学留学、広島大学大学院分子内科学講座准教授などを経て、2017年から現職。広島大学病院呼吸器内科診療科長、広島大学医学部医学科長兼任。  前身の組織から70年余りの歴史を刻む広島大学大学院医系科学研究科分子内科学。その教室の中心を担うのが呼吸器内科グループだ。教授として教室をまとめ、広島大学病院呼吸器内科の診療科長も務める服部登教授に、診療や研究、人材育成の展望を聞いた。 ―呼吸器内科グループの概要を教えてください。  内分泌・糖尿病内科グループとともに、分子内科学の教室を構成しています。分子内科学は1948年に、当時の広島県立医科大学で開講した「内科学第2講座」が源流です。時代とともに循環器内科や腎臓内科が独立するなどした過程の中で、「多臓器を分子レベルで診る内科学」という意味合いで名付けられました。  現在は、大学院生を含めて、全体で60人近くの医局員を要する大所帯となっています。所属する医師のおおむね8割は呼吸器内科という構成です。教室の教授も代々、呼吸器内科が担ってきています。 ―呼吸器内科の診療や研究での強みは何ですか。  難治性の呼吸器疾患全般を高いレベルで診ることができる医師がそろっている点です。 中でも間質性肺炎は、継続的に力を入れてきた疾患の一つです。間質性肺炎は、検査で「異変」を見つけることは容易ですが、原因の見極めが非常に難しい。薬物、アレルギー、膠原病など、さまざまな可能性が考えられます。なぜ異変が起きているのかが分からないと、正しい治療はできません。 この難しい疾患に関する顕著な成果は、先代の教授だった河野修興先生のグループ研究です。間質性肺炎患者の血中に増える糖タンパクを発見。「KL―6」と名付けられ、診断薬として国内外の医療現場で実用されています。医局全体で長年培った信頼と実績によって、中四国地方を中心に全国から患者が集まります。 ほかにも、肺がんや慢性閉塞性肺疾患(COPD)、ぜんそく、感染症などに強い意欲で取り組む医師たちが教室を支えています。 ―広島の歴史と密接に関わってきました。  毒ガス傷害です。広島県竹原市の大久野島にあった旧日本軍の毒ガス製造工場で働いた元工員たちの健康診断や治療に、広島大学などの呼吸器内科の医師で研究会をつくって取り組んできました。初代教授の時代から続き、途中からは国も費用を負担しました。 一定期間毒ガスにさらされた人に、どんな健康影響が出るか。先輩たちは手探りで健診と治療に当たり、知見を積み重ねました。対象となる人の病気の早期発見、早期治療につなげたと同時に、毒ガスの長期的影響を解き明かす貴重な研究成果も得られたと思います。イラン・イラク戦争でマスタードガスが使われたイランなど、海外の医師や研究者もよく視察に訪れます。 ―今後の展望は。  呼吸器を診る医師を増やす必要性を、ますます強く感じています。近年は肺がん、肺炎、COPDなどの患者が急増し、さまざまなタイプのぜんそくに苦しむ人も増えています。 こうした死に直結しかねない病気を診る医師は、全国的に足りない状況。大学病院としての診療レベルの維持はもちろん、教育機関として新しい人材を育て、各地に供給しなければなりません。 若い呼吸器内科医を育てるには、まず何より、呼吸器内科診療の面白さを伝え、関心を持ってもらうことが効果的です。その点、医療機関での研修が果たす役割は大きいでしょう。 呼吸器内科診療の現場に触れた研修医が「医師を目指す上で、有益なことを学んだ」「この診療科に興味が持てる」と感じるかどうか。それは、現場の医師たちが魅力ある診療を見せられているかどうかにかかります。その意識の醸成は、これからも大切にしていきます。 広島大学大学院 医系科学研究科 分子内科学広島市南区霞1―2―3☎082―257―5555(代表)https://home.hiroshima-u.ac.jp/naika2/

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山口県の未来を担う呼吸器専門医を育成

山口大学大学院 医学系研究科 呼吸器・感染症内科学講座松永 和人 教授(まつなが・かずと)1991年和歌山県立医科大学医学部卒業。同大学附属病院診療医、米南フロリダ大学留学、和歌山県立医科大学内科学第3講座准教授などを経て、2015年から現職、山口大学医学部附属病院副病院長兼任。  山口県内の呼吸器・感染症領域の医療の充実を目指して開講した山口大学大学院医学系研究科呼吸器・感染症内科学講座。若手医師の育成に尽力する松永和人教授に、講座の現状と展望を聞いた。 ─講座の特徴について聞かせてください。  当講座は、2015年7月、4人でスタートしました。現在は15人の医師が在籍しており、非常勤を含めて地域の医療機関10施設以上に医師を派遣しています。地域のクリニックや病院との連携も進んでおり、最近は病状が比較的軽いうちに治療を開始できる患者さんが増えてきたように思います。 診療の領域は、風邪や肺炎、ぜんそく、COPDなど、いわゆるコモンディジーズと言われる日常的によく耳にする病気から、肺がんや呼吸不全など専門性が高く在宅医療につながるような疾患まで対応しています。また、医療機能においても急性期から慢性期まで幅広くカバーしています。 ─山口県内の呼吸器内科医療の現状は。  内閣府の調査では、2018年の山口県の高齢化率は47都道府県中、第4位。上位に位置しています。 高齢化に喫煙、やせや肥満といった栄養障害、活動低下などの危険因子が重なると、体の中に慢性的な炎症が生じ、さまざまな病を引き起こすと考えられています。呼吸器疾患もこうした危険因子を併せ持っており、近年、山口県内では肺がんをはじめ、あらゆる呼吸器疾患が増加傾向にあります。 一方で、山口県は呼吸器専門医が著しく少なく、循環器や消化器など、他の診療科の医師が呼吸器の領域まで対応しているような状況です。 当講座では、がん、アレルギー、感染症など、あらゆる呼吸器疾患の治療ができる呼吸器専門医を育成することに尽力しています。 同時に、学生や呼吸器以外の診療科を選択した医師にも、呼吸器疾患治療で必要な知識や技術を習得してもらえるように取り組んでいます。 開講して4年余り、こうした教育の成果は着実に表れてきています。例えば、呼吸回数の評価や、呼吸機能検査のデータ解釈などは研修医や学生も理解できるようになってきました。 呼吸器内科医の育成は、その知識やスキルを系統立てて継続的に伝えることが重要です。そうした観点からも、当講座の存在意義は大きいと思っています。 また、地域の高齢化を見据えて、2019年4月から呼吸器・健康長寿学講座も開設しました。現在は、呼吸器・感染症領域の課題となっている誤嚥(ごえん)性肺炎の予防に取り組んでいます。 ─今後の展望について聞かせてください。  今後は、AI(人工知能)やICT(情報通信技術)も、呼吸器疾患に対応するツールとして、積極的に活用していきたいと考えています。 例えば、ICTは、過疎地域などを対象とした遠隔診療に活用できます。在宅で過ごす呼吸器疾患の患者さんの状態の変化に早い段階で気付き、対処するために、訪問看護に行く看護師がキャッチした患者さんの様子や症状といった情報をもとに、離れたところにいる医師が診断し、指示をするといった使い方です。 研究面では、当大学の機械工学分野と共に「電子聴診器」を共同開発しています。肺炎や心不全を起こすと、呼吸法が変わります。危険な呼吸法かどうかを電子聴診器で区別し、その情報をコンピューターで解析して肺炎予防などにつなげたいと考えています。呼吸音を録音して解析するところまではできていますので、ICTと絡めて、どう活用していくかを、これから追究していきたいと思っています。 山口大学大学院 医学系研究科呼吸器・感染症内科学講座山口県宇部市南小串1─1─1☎0836─22─2111(代表)http://www.kokyuki.med.yamaguchi-u.ac.jp/

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戦略は実現できてこそ 目標管理で成果を出す

地方独立行政法人加古川市民病院機構 加古川中央市民病院大西 祥男 理事長・院長(おおにし・よしお)1983年神戸大学医学部卒業。米ワシントン大学留学、神戸大学医学部附属病院講師、兵庫県立柏原病院(現:兵庫県立丹波医療センター)院長、加古川西市民病院・東市民病院(現:加古川中央市民病院)統括院長などを経て、2016年から現職。  2016年の新統合病院開院から、高度専門医療を行う5大センター(消化器、心臓血管、こども、周産母子、がん集学的治療)を核に、32診療科、600床を有する急性期病院として地域に貢献してきた加古川中央市民病院。病院機構のトップとして陣頭指揮に当たっている大西祥男理事長・院長に聞いた。 ―これまでの取り組みについて教えてください。  運営が軌道に乗って以降、診療科の拡大や医療の質の向上に尽力。乳腺外科、放射線治療科に続き、2020年4月には小児循環器内科を開設予定です。専門医や認定遺伝カウンセラーと準備を進めてきた遺伝子診療部門も立ち上げます。 医療機器の導入更新も積極的に実施。循環器領域ではTAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)やインペラ(補助循環ポンプ)での治療、消化器領域では手術支援ロボット「ダビンチ」による直腸がん手術のほか、肥満症治療の外科手術も始めました。 質に関しては、2019年12月に県で4番目となる医療被ばく低減施設に認定。ほかに輸血機能評価や病院機能評価の認定などを通して、職員全体の意識の向上を実感しています。 救急医療にも注力。2018年度はドクターヘリを含む救急受け入れが7648件、救急外来は合計約1万5500件。不応需率は1桁台に下がりました。 ―過去最高21億円強の黒字を達成されている理由は。  第一に、医療者が診療に専念できることです。例えば、医師事務作業補助者。体制加算は15対1が上限なので600床なら40人の計算ですが、当院は約70人を配置し、さらに増員を考えています。人件費はかかりますが、医師の事務的負担が減り、圧倒的にプラスに働きます。 もう一つは、BSC(バランスト・スコアカード)を用いた目標管理。年3回、計70の部門ごとにヒアリングを行い、一度に35時間ほどかかります。大変ですが、人材育成、患者サービス、業務改善、財務を中心に、何を目指すのか根気強く話し合ってきた結果、今があると思っています。 「BSCを取り入れているがうまくいかない」という話はよく聞きます。その理由は結局、収益の話に転じているからではないでしょうか。「人をどう育てるか」「工夫できる患者サービスは?」「業務改善できるところは?」など、考え実行し、財務はその結果です。 各診療科の診療内容を理解し、手術や収益ばかりでなく、数字に表れない貢献度もしっかり評価し、ヒアリングを実施しています。 ―データを有効利用し、結果を出しているそうです。  ヒアリングでは、数値データによる判断が欠かせません。企画情報部にはシステムエンジニア(SE)が5人所属しており、電子カルテの膨大な数字から必要なデータを作り込んでいます。  医師は数値に強いですから、平均値と比べるなどして、具体的な改善策を考えます。実現には内外の連携が必須で、そこには私が出向いて話をつなぎます。 最初は、「面倒やな」と思われていたでしょうね(笑)。でも数年たって浸透してきました。 次は、後進の育成、コミュニケーションの活性化です。当院ではシステミック・コーチングに取り組んでいます。私自身も院内の5人のステークホルダーに、コーチングを続けています。コーチングはテクニックではなく、「あなたのことを考えていますよ」という思いを具現化することが大切だと感じました。 また、「スペシャルサンクスカード」という私から職種、雇用形態に関係なく、頑張っている職員に感謝を贈るカードも始めました。 運営において、さまざまな戦略を立てています。しかし、肝心なのは、どこまで具体的に落とし込めるか、人に実際に行動してもらうか。その工夫が重要ではないかと考えています。 地方独立行政法人加古川市民病院機構 加古川中央市民病院兵庫県加古川市加古川町本町439☎079―451―5500(代表)https://www.kakohp.jp/

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地域救急医療体制のさらなる充実を図る

医療法人徳洲会 宇治徳洲会病院末吉 敦 院長(すえよし・あつし)1985年岡山大学医学部卒業。宇治徳洲会病院循環器科部長、同心臓センター長、同副院長を経て、2015年から現職。救命救急センター長を兼任。  2015年に新築移転し、さらなる医療の質とサービスの向上に努めてきた宇治徳洲会病院。救命救急センターをはじめ地域周産期母子医療センター、地域がん診療連携拠点病院、地域災害拠点病院など多くの責務を担う。高度急性期から在宅まで、地域のトップランナーを目指し、施設や制度の整備を加速させている。 ─病院の特徴は。  当院は1979年に開業し、40周年を迎えました。2015年に新築移転し、さらにより良い医療を提供できるよう職員一丸となり頑張っているところです。 開院以来、重症救急患者の命を救う救命救急を、24時間体制で継続して提供してきました。「どんな患者も断らない」をモットーに、2019年は約9000件を受け入れ、救急応需率は99.7%となっています。 2019年、地域がん診療連携拠点病院にも指定されました。京都府南部地域での中心的な役割を担い、山城北医療圏の人口約45万人のうち42%の患者の治療実績があります。 また、地域周産期母子医療センターの指定を受けており、ハイリスク妊婦および新生児に対応した治療、管理にも力を入れています。 2002年に開設した心臓センターも当院の強みの一つ。専門の医師が24時間365日体制で常駐し、内科部門と外科部門が合同で循環器疾患の診療を行い、多岐にわたる循環器疾患に即応しています。カテーテル治療においても近畿で有数の実績を積み、アクティビテ ィーが高い部門の一つです。 ─新築移転後について。  新築移転に伴い、免震構造の病院を建て、地域災害拠点病院に指定されました。耐震性能グレードはSランク、震度7の巨大地震が発生した場合も軽微な被害で済み、病院機能を継続できる建物です。 実際に2018年の大阪府北部地震発生の際にも、大きな揺れは感じず、エレベーターも止まることなく、診療機能に影響を与えることはありませんでした。 救急搬送された重症外傷患者の診察・治療が1カ所でできる「ハイブリッドER」を導入して、さらに高度な救急医療が可能になりました。重症外傷の救命率向上に貢献できればと思っています。 そして、2020年4月には、血液内科病棟に無菌病棟18床の設置、頭頸部外科の開設も予定しています。 ─今後の展望は。  開設したいと考えているのが身体合併症精神科病棟です。近畿では大阪府、兵庫県にはありますが、京都府にはありません。 現在、市内精神科病院からの身体合併症による紹介件数が年間平均170件あります。そのうち入院件数が約70件。精神疾患関連の救急搬入件数が年間700件で、そのうち約250人が身体合併症で入院しています。 これに薬物中毒や自殺企図の患者を入れると需要は膨大です。どんな患者も断らず、治療後の管理を適切に行うためには専用の病棟が必要だと考えています。地域の急性期病院として、地域で発生するすべての病気に対応できる病院にしていきたいと思います。 また、若手医療スタッフの育成も課題です。当院で研さんを積んだスタッフが、今後別の施設に移った際に「さすが宇治徳洲会病院で働いていただけあるな」と思ってもらえる人材を育てたいですね。 そして、地域包括ケアシステムの整備にも力を入れていかねばなりません。高度急性期から慢性期、在宅まで地域のトップランナーを目指して元気な病院にしていきたいと思います。 新築移転をしたことで、患者さんが求める医療レベルも高くなったと実感しています。基本理念の一つである「自分の家族に受けさせたい医療」を基準に、安心して預けていただける病院を目指し、職員一同全力で取り組みます。 医療法人徳洲会 宇治徳洲会病院京都府宇治市槇島町石橋145 ☎0774―20―1111(代表)http://www.ujitoku.or.jp/

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