スポーツをする人すべてのけがや不調を予防したい
1988年大分医科大学医学部(現:大分大学医学部)卒業、1992年同大学大学院医学研究科修了(医学博士)。九州大学生体防御医学研究所生殖内分泌婦人科、日本学術振興会特別研究員などを経て、2005年国立病院機構西別府病院。2010年から現職。
運動によるけがや不調の治療や現場への医療に関する提案に特化した「西別府病院スポーツ医学センター」。専門的な診療を求めて、全国から患者が訪れる。
―スポーツ選手に関わるようになった経緯は。
もともとは遺伝子研究が専門の婦人科医でした。医師になって5年が経つころ、大分県サッカー協会の医事委員会からサッカーに関する医学活動をしないかと声がかかりました。大学時代にサッカー部に所属していたことから、その経験も役立つと考え、引き受けたのが、スポーツ医学に入ったきっかけです。
2008年にはサッカー女子日本代表の「なでしこジャパン」に帯同することが決まりました。当時、スポーツ医のほとんどは整形外科医。「婦人科医の出番はないのでは」と当初は思っていましたが、ヒアリングするうちに、女子選手には婦人科系の悩みが多いことを知りました。「月経痛が重くて十分なプレーができない」「大切な試合の日に月経が重なったらと心配でならない」などの相談があったのです。
そこで、低用量ピルの服用を提案しました。ホルモンをコントロールして痛みを軽減したり、試合と重ならないようにしたり、月経とポジティブに付き合えるよう手助けしたのです。「ピルを使ったらその後、妊娠できなくなるのではないか」といった不安を口にする選手もいましたが、その選手も、大会後、妊娠、出産を経験しています。
―スポーツ医学センターの特徴は。
2005年に当院の総合スポーツ外来に入り、2010年、センターができるのに当たってセンター長を拝命しました。野球医学科、スポーツ内科、スポーツ歯科などさまざまな診療科を擁しています。
小学生から職業アスリートまで幅広い年齢の方が来院され、8割以上が18歳以下の患者です。学生が授業後に通院できるよう、午後4時以降の受診にも対応。遠方からの患者さんも多いため、週2日は夕方の検査でもその日のうちに結果が出る「ワンストップ」の対応ができるようにしています。
けがの治療ばかりではありません。例えば「バレー選手として活躍したい。身長を伸ばしたい」という小学生には栄養士と相談し、成長を促進させるような食事摂取方法や生活習慣を考えました。また長距離走の選手は体重を減らすのではなく筋肉量と体脂肪率を調整するよう指導しました。それによって、無理な体重制限で貧血を起こすことなく、成績が上がる。陸上の全国大会で大分県の選手が高校総体と国体の2冠を取った時は、うれしかったですね。
当院では患者さんが「何を実現させたいのか」を重視します。例えばひじを故障した野球選手には、単なる投球制限をさせるのではなく、ひじや肩に負担をかけない投げ方を指導する。患者さんの目的はけがを治すことだけではなく、パフォーマンスを高めることであり、試合に勝つこと。それを大切にしています。
―今後、スポーツ医学センターが果たす役割とは。
スポーツをするすべての人のけがや不調の予防が目標です。故障してから来院するのではなく、正しい知識をもって安全にトレーニングをして、万全の状態で試合に臨んでほしい。選手が実力を発揮するための手伝いをしたいと考え、選手やコーチに向け、さまざまな情報をウェブサイトや講演などを通して発信しています。
ただ、現在、当センターには専属スタッフがいません。将来はスポーツ医学が一つの診療科として子どもから高齢者までそれぞれの年代に合わせた健康維持の方法を確立させられたらと思っています。さらに、ノウハウを広めていくことができれば、それが日本のスポーツ振興につながるはずです。
独立行政法人国立病院機構 西別府病院 スポーツ医学センター
大分県別府市鶴見4548
TEL:0977-24-1221(代表)
http://www.nbnh.jp/smc/