ウイルス性皮膚疾患を解明し、対策につなげる
単純ヘルペスや帯状疱疹など、早めの確定診断が必要な「ウイルス性皮膚疾患」。皮膚科医以外にとっては診断が難しい疾患や最新の治療法について福岡大学医学部皮膚科学教室の今福信一教授に話を聞いた。
―見極めが難しいウイルス性皮膚疾患は。
非常に典型的な帯状疱疹や口唇ヘルペスの場合、診断に苦労することはないでしょう。特に帯状疱疹はほぼ間違いありません。
しかし、口唇ヘルペス、性器ヘルペスが複雑な症状を呈している場合は、誤診されることがしばしばあります。他の病気も起りやすい部位であること、「これがヘルペスだ」と確定するための検査法の開発が、なかなか進んでいないことなどが大きな理由です。
当教室では、2016年から、単純ヘルペスのDNAの研究を進めてきました。まだ一般化できるものではなく、診断までに1〜2時間かかるものの、ほぼ確実に、陽性か陰性か、また陽性ならば1型か2型かを鑑別することができるようになりました。
―ウイルス性皮膚疾患の治療の最新の話題を。
帯状疱疹の研究に関して言えば、ここ2年はまさに飛躍の年です。
今年、帯状疱疹の迅速検査キット「デルマクイックVZV」が発売されました。患部の粘膜を摂取すれば、およそ98%の確率で陽性か陰性かの結果がわかります。診断の精度が各段に上がるため、無駄に薬を出したり、間違った薬を渡したりといったケースが減るのでは、と考えています。
2017年には、日本で開発された帯状疱疹のための新薬「アメナメビル(商品名:アメナリーフ)」が発売になっています。
従来主流だった治療薬は1日3回服用する必要があり、腎臓にも負担をかける恐れがありましたが、この薬は1日1回の使用で、腎臓が悪い高齢者にも使用できます。今後、世界の帯状疱疹治療のスタンダードになる可能性がある薬だと思います。
帯状疱疹の予防ワクチンが認められたことも大きなトピックです。50歳以上の人に接種すると、帯状疱疹の発症が50%以下になるとされています。
2014年に日本で水痘の予防接種が始まって以来、私は水痘にかかった子どもを診察した記憶がありません。そのくらい、流行がなくなっている。ということは、日本全体が水痘という病気を忘れかけているわけです。
水痘が流行すると、免疫ができるため帯状疱疹にかからなくなります。逆に、水痘にかかる子どもがいなくなるとウイルス自体も生き残ろうとするため、帯状疱疹を発症する可能性が高まるわけです。最近では、より予防効果の高い成分ワクチンが認可されました。日本でも販売間近ではないでしょうか。
―取り組んでいる研究について聞かせてください。
ヘルペスは接触感染です。でも、あまり接触しないように心がけていても、うつってしまうことがある。「なぜ、うつるのか」。それをはっきりさせるために研究を進めています。
実は、私たちの研究で、口周りにヘルペスの症状が出ているときは、口の中にはウイルスがないということがわかっています。
症状が出てくるのは、ある特別な条件のとき。症状と感染力がある時期は一致せず、自分では「大丈夫」だと思っているときに、どうやらウイルスを排出し、周囲にうつしているようなのです。
ヘルペスウイルスもわれわれと同じように生きています。ウイルスのライフサイクルがわかれば、どこで感染するのか、どんな人が病気になるのかといったことも明らかになるでしょう。活動を明らかにして、どういった対策が立てられるのか考える。それが私たちの研究の大きなテーマです。
福岡大学医学部皮膚科学教室
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