積極的な啓発活動を展開/社会全体で肝疾患治療の後押しを
◎熊本県肝臓病認定医
当院は国から熊本県肝疾患連携拠点病院に指定されています。行政や専門医療機関と連携して肝疾患診療連携ネットワークを構築し、熊本県での肝疾患診療レベルの向上と均てん化を図っています。
日本肝臓学会認定の肝臓専門医とは別に、熊本県では独自の取り組みとして熊本県肝臓病認定医の制度を設けています。現在、県下で100人以上の認定医が活躍しています。
10年以上前に話はさかのぼりますが、熊本県では肝臓専門医が不足しており、かつ熊本市内に集中していました。そこで熊本県肝臓病認定医制度を導入し、肝疾患診療の経験豊富な先生方には認定医として申請していただき、審査の上、認定することになりました。認定医が少ない医療圏では、こちらから働きかけて登録を増やしました。その結果、肝臓専門医あるいは熊本県肝臓病認定医が各二次医療圏の専門医療機関として活動するようになり、地域中核病院や大学病院との連携を通して、肝疾患診療レベルの向上と均てん化に結びついていると考えています。
◎肝疾患コーディネーター
ネットワークは構築しましたが、次なる目標は肝疾患診療についての最新情報の提供と啓発です。
医療従事者に対しては毎年、講師を派遣して県内7〜8カ所で講習会を開催しています。熊本市内だけで開催しても、地域の先生たちはお忙しいのでなかなか参加できません。それならば、こちらから出向こうと考えたわけです。
一方、看護師、保健師、栄養士、薬剤師、臨床検査技師など多職種を対象に、肝疾患コーディネーターの養成をしています。肝疾患コーディネーターの重要な役割は、医療従事者と患者さんとの橋渡しです。
現在250人を超えるコーディネーターが県内で活躍しており、患者さんやその家族に肝疾患治療の最新情報や助成制度などを伝え、専門医療機関への受診を勧奨しています。
◎啓発活動
7月28日は世界肝炎デー・日本肝炎デーです。昨年は、それに先駆けて7月23日に熊本市の繁華街である下通アーケードで、肝疾患に対する啓発キャンペーンを行いました。肝炎ウイルス検査案内のチラシやポケットティッシュの配布、医師による無料相談などを実施しました。その場でウイルス検査の申し込みもできるようにしました。私も街頭に立ち、ティッシュを配布しました。同キャンペーンは今後も続けていく予定です。
ほかにも出張型肝臓病教室や市民公開講座などを開催しています。いずれも熊本市内だけでなく県内各地で開催します。
地域によって肝炎ウイルスキャリアの頻度にばらつきがあります。できるだけこちらから出向き、その地域の実情に合った講演を行うことが重要です。
今後は、一般企業、学校などでの啓発活動も視野に入れています。県民の方々にウイルス性肝炎に対しての正しい知識をつけてもらい、社会全体で肝疾患診療を支援する必要があります。
ウイルス性肝疾患は、疾患として他の生活習慣病とは多少性格が違うと思います。本人が知らないうちに感染している場合が大半ですが、病気に対する世間の偏見は根強いものがあります。啓発活動を通じて偏見をなくすと同時に、患者さんの精神的なサポートにも力を入れなければなりません。
地道な啓発活動が功を奏し、最近では徐々に治療を受ける人が増えてきました。しかし、肝疾患治療への国からの医療費助成制度など、まだまだ十分に認知されていません。今後も引き続き啓発活動に力を入れていくつもりです。
◎ウイルス検診
会社の健康診断などでは、GPTやGOTなどの血液検査を行いますが、費用の問題から、ウイルス検査まで行われていないのが現状です。GPTやGOTが正常だから、何ら問題がないと思う人が実に多いようです。
そういう意味で、保健所などが実施している無料ウイルス検診を受検し、肝炎ウイルスの有無を確認することが大事です。
◎熊本地震
B型肝炎の患者さんは、継続的な薬の服用が必要です。服薬をやめてしまうと、せっかく抑えられていたウイルスが増殖して肝炎が起こります。
そこで熊本地震の直後に、営業中の薬局に抗ウイルス剤の在庫の有無や入手の可否について確認し、薬や助成手帳を紛失した患者さんには、厚生労働省や県庁に確認した上で、手帳なしの処方や再処方を可能にしました。また、被災された患者さんからの処方依頼を受け、関連病院及び消化器内科の同門会員に対応を依頼しました。
さらに患者さんへの内服継続への注意喚起をA4サイズのチラシにまとめ、DMAT(災害派遣医療チーム)に依頼して避難所への配布や避難者への情報提供を行いました。またテレビやラジオのテロップなども活用しました。
加えて熊大消化器内科のFacebookにこのような情報を掲載したところ、ボランティアの方たちがそれに気づき、情報を広めてくれたのも助かりましたね。幸い大きな問題は起こらずに済みました。みなさんの協力に大変感謝しています。
◎肝臓がんの再発
肝臓がん治療は進歩して、さまざまな治療法が選択できるようになりました。しかし外科的切除やラジオ波焼灼術などの根治的治療を行っても、C型肝炎ウイルスが原因の場合、年率15~20%で再発します。それを考えると、まずはがんにならないことが何よりも重要です。
新薬の登場でC型肝炎を治せる時代になりましたが、C型肝炎が治ったからと言って肝臓がんになるリスクがゼロになるわけではありません。ウイルス消失後に肝臓がんを発症することもあります。患者さんには経過観察の重要性を十分に説明すると共に、 "より厳重な"フォローアップをしなければならないことを、われわれも認識する必要があります。
熊本市中央区本荘1-1-1
TEL:096-344-2111(代表)
http://www.kuh.kumamoto-u.ac.jp
熊本県肝疾患診療連携拠点病院 肝疾患センター
http://www.kuh.kumamoto-u.ac.jp/hepatolo/about