ロボット支援による低侵襲治療をけん引したい
がんの根治と検査・手術の低侵襲化の両立を目指し、臨床、研究、教育に取り組む鳥取大学腎泌尿器学分野。武中篤教授に、前立腺がんの手術や診断の最新事情について聞いた。
―前立腺がんの手術の現状について。
鳥取大学医学部附属病院は2010年8月、山陰地方で初めて手術支援ロボット「ダビンチ」を導入。2011年2月には診療科の垣根を越えた低侵襲外科センターを設立しました。
ロボットを活用する利点は精緻な手術が低侵襲でできるということに尽きます。前立腺がんの手術はミリ単位の作業が必要で、彫刻にも例えられる細かさが求められます。ロボット手術が非常に向いていると言えるのです。
2012年4月、前立腺がんへのロボット手術が保険適用されました。かつては手術中の出血も多かったのですが、大幅に減って視認性の確保ができるようになりました。
2年前には腎がん、この4月からは膀胱(ぼうこう)がん、食道がん、肺がん、胃がんなどに対するロボット支援手術が保険適用となりました。私たちはこれらの先駆けとして、安全かつ確実に手術を完遂する知識と技術を伝えなければと思っています。
大学としては低侵襲外科センター発足以来、診療科の縦割りではなく、横断的に交流できるようになってきたと感じています。従来は関わりがなかった診療科とも、ダビンチへの取り組みで交流が飛躍的に増えました。今はロボット手術以外でも診療科の枠を越えた取り組みが増えています。
―新たな機器による診断も始まっているそうですね。
2017年夏、汎用超音波画像診断装置「コエリス トリニティー」を用いた新たな前立腺生検を開始しました。当時この装置を導入していたのは全国で4施設。われわれが5施設目です。
前立腺がんの確定診断では、直腸から前立腺12カ所に針を刺して組織を採取し、がん細胞の有無を調べます。これまでは事前に撮影したMRI画像を頭の中でイメージしながら針を刺していましたが、前立腺は形状が変わりやすいこともあり、がんがあっても、がん細胞を採取できない場合もありました。
導入した超音波画像診断装置は、事前に撮影したMRI画像とリアルタイムの超音波3D画像を融合させることで、前立腺がんの疑いがある部分を正確にとらえて組織を採取できます。がんの見落としのリスクが減るだけでなく、患者さんの再検査の負担も軽減できるようになりました。
この検査が始まって1年余り。これまでに150人ほどがこの検査を受けました。昨年の導入の際、新聞に取り上げられたことで認知度も高まっているようで、当院での生検を希望する方が、2割ほど増えている印象です。
―今後の展望を。
膀胱がんのロボット支援手術については、鳥取大学医学部附属病院が日本のパイオニアであると自負しています。2017年3月末までの実施件数は30件。検証を重ねながら、術式を確立していきたいと思っています。
また、5年後や10年後に花開くような基礎研究を地道に行い、新しい医療につなげたいという長期的な展望もあります。
当たり前とされていることも、おかしいと思ったら疑う。医学の教科書ももしかしたら間違っているかもしれない。そこに答えはないかもしれません。でも、答えがない問題を模索するということが、医療人にとって非常に大事なことなのではないかと思います。
今後、高齢化のさらなる進展とともに、がん以外の部分、たとえば排泄の問題などでの泌尿器科医のニーズもますます高まると予想しています。高度医療にも対応していますので、集まった若い人たちとともに新しい医療を模索していきたいですね。
鳥取大学医学部器官制御外科学講座 腎泌尿器学分野
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