高度化する外科手術 変わるトレーニング環境
日本に内視鏡外科が普及し、発展していく過程を最前線で体感してきた渡部祐司教授。ロボットに代表される新たなテクノロジーの登場などによって、外科医に求められる技術水準や安全性への配慮も変化している。「トレーニングのための環境をさらに整備していく必要がある」。挑戦は続く。
―「四国内視鏡外科研究会」代表世話人でもあります。
日本国内では1990年代初めに内視鏡外科手術が広がり、四国でも数施設が内視鏡外科手術を開始しました。
手術の質の向上を目的に1993年、香川県立中央病院の前院長である塩田邦彦先生を中心に「香川県内視鏡下談話会」が設立。
一方、全国組織「日本内視鏡外科学会(JSES)」が誕生し、愛媛県をはじめ各県の研究会は、その活動の軸足をJSESに一本化していきました。そのような中、「香川県内視鏡下談話会」は1996年、名称を「四国内視鏡外科研究会」に変更しました。
塩田先生がそろそろ臨床を離れるという時期に差し掛かった頃、「今後の四国内視鏡外科研究会をどう運営していくか」についてお話しする機会がありました。この歴史ある研究会をさらに発展させ、全国学会にはない四国独自の特色ある研究会として充実させたい。そう考えて私が代表を引き受けることになったのです。
―力を入れていくのは。
2018年4月の診療報酬改定で、ロボット支援下内視鏡手術による胃がんや直腸がんなどの治治療が保険適用となりました。
ロボット支援下内視鏡手術のような新たな技術が広がっていくときに注意しなければならないのは「安全性の確保」です。
そこで、関係する学会による、医師の技量を認定するプロクター制度の確立が進んでいます。私もJSESのプロクターに選ばれ光栄であるとともに責任も感じています。
プロクターは自身の技術を磨くだけでなく、地域の医師の技術向上を後押しする役割もありますので、トレーニング指導にも関わります。
愛媛大学は2007年にできた「低侵襲手術トレーニング施設」を有しています。四国管内であれば日帰りも可能です。今後は四国内視鏡外科研究会を軸に地域全体の手術のトレーニング体制をより充実させたいと考えています。手術の技術に地域差があってはならないと思います。
―愛媛大学ではカダバー(遺体)による研修なども実施。
カダバーサージガルトレーニングの趣旨に同意され、ご提供いただいたカダバーを使って、外科手術のトレーニングセミナーを開いています。
従来、カダバーが提供される目的は「解剖実習」が一般的とされてきました。ただ、国の制度として明確な指針などが定められておらず、研修の内容によっては法に抵触するのではないかと言われてきました。また、日本では遺体にメスを入れることに対する抵抗感なども根強く、なかなか実現できませんでした。
海外ではカダバーを用いた手術の研修が普及しています。私たちはしばしば国外でトレーニングを重ねてきたのです。外科手術の高度化に対応するため、外科系の学会が連携してカダバートレーニングが可能な環境の整備を国に提言。厚労省は6カ所の「カダバーサージカルトレーニング施設」を選定し、愛媛大学は2013年に認定されました。
例えば、胃がんの手術でリンパ節郭清をするケース。膵臓を傷つけないように鉗子を使わなければならないのですが、膵臓の形状や位置は、人と豚では全く異なります。
より臨床に近い研修を可能にするカダバーでのトレーニングは、こうした差を補ってくれるものです。技術と安全性の向上を担保するためには、カダバーサージカルトレーニングのさらなる環境整備が不可欠です。
愛媛大学大学院医学系研究科 病態制御部門外科学講座 消化管・腫瘍外科学
愛媛県東温市志津川
TEL:089-964-5111(代表)
https://www.m.ehime-u.ac.jp/school/surgery3/