鹿児島の小児外科診療 世界水準を常に届ける
小児外科は15歳以下の外科治療に特化した診療科だ。鹿児島大学の家入里志教授は小児外科の診療と未来の小児外科医の育成に力を入れる。
―就任して4年目ですね。
着任時の課題であった小児の高難度内視鏡外科手術の導入はある程度達成できたと思います。胆道拡張症や食道閉鎖症、肺切除などの内視鏡外科手術が通常手術として行われる状況になりました。
現在力を入れているのは外来診療の訪問先をより広域にすることです。従来の奄美大島に加え、種子島の病院でも外来診療と手術を始めました。鼠径ヘルニアなどの簡単な手術ならば現地で実施し、定期的なフォローも診療応援に合わせて行っています。
枕崎でも外来診療をしています。ちょっとした治療やフォローのために片道何時間もかけて大学病院へ来るという患者さんの負担はできるだけ減らそうと思っています。大きな手術の際はやむを得ないけれど、外来や簡単な手術は医師を派遣したほうが、患者家族の負担も少なく、効率が良いと考えています。
鹿児島に着任しなければ、患者の住んでいる環境まで視野に入れることはなかったかもしれません。医師になってから21年間は、福岡県内に勤めていましたし、勤務した病院も駅から近い場所ばかりです。飛行機に乗るにも地下鉄を降りてすぐ、という利便性の高い地に慣れてしまっていました。
ここは対照的で、県内に住んでいても病院まで車で3時間かかることも珍しくない。診療の際、気軽に「次は来週に」とは言えないのです。
2016年に霧島市立医師会医療センターに小児外科が開設されました。現在、手術が可能な小児外科は県内に5カ所。急を要するときにはドクターヘリで患者を搬送する体制が整えられ、現地の医師と連携をとりながら診療や手術など、フォローアップできる仕組みを構築しています。
―教育面は。
小児外科はもともと一つの疾患当たりの症例数が多くなく、何千人、何万人に1人という病気がほとんど。地方になればなおさらです。
25年経験していても診療したことがない症例がたくさんある。一生勉強の診療科です。一方で、少ない症例数で将来の小児外科を担う人材を育てなければならない。全国の小児外科共通の課題だと言えるでしょう。
症例数が少ない分、学ぶ機会を有効活用してほしいと思っています。私が就任した当初は大学に8人ほどしかいなかった医師が、今は14人。学内の医局員が増えたことで、国内外の学会に参加しやすくなりました。
短期を含めて留学にも積極的に行ってもらっています。欧米は手術や治療が洗練されていてシステマティックです。そういった診療を見てほしい。アメリカのハーバード大学ボストン小児病院、カナダトロントのシックキッズなど資金面でも設備面でも充実している施設を見てきてもらうことが多いですね。海外が優れているところも、われわれが優れているところも、両方あるはずです。肌で感じてきてほしいと思っています。
―今後の目標は。
未来を予測した手術ができるようにしたいと思います。生まれたその日の赤ちゃんに対して、成長を念頭に置いた手術ができれば一番良い。今は、まず命を助けることが優先ですが、今後は「20年後、30年後はこうなる」というデータ上の予測を念頭に置いて、手術なり治療なりをしなければならないと思います。
かつて、薩摩藩は全国でいち早く世界に目を向け、日本最先端の産業技術を持っていました。偉人たちに続いて、世界の知識を鹿児島に持ち込んでほしい。グローバルとローカルをかけた「グローカル」という言葉があります。世界と同じ基準の小児医療を地方にも届けるのが目標です。
鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 小児外科学分野
鹿児島市桜ケ丘 8-35-1
TEL:099-275-5111(代表)
http://www.kufm.kagoshima-u.ac.jp/~ped-surg/