災害に強い病院づくりに終わりはありません
院長に就任して7年。南海トラフ地震を念頭に、地域住民からの信頼を高める上でも災害に強い病院づくりが必要と判断し、ヘリポートの設置など災害対応機能の強化を進めている。
―災害機能の強化に乗り出した経緯を教えてください。
院長に就任したのは2011年4月1日。東日本大震災には当院からもDMAT(災害派遣医療チーム)を派遣しましたが、同じ災害が和歌山県で起きた場合、果たして当院で対応できるのかを考えるところから始めました。
同年には紀伊半島で大雨による大規模な水害が発生。私も被災現場に入りました。予想できなかったのは、高台にある新宮保険医療圏の災害拠点病院が断水してしまったことです。腎臓透析や医療機器の洗浄に不可欠な水が止まったため、透析患者さんらを同じ医療圏の他施設に移さざるを得ませんでした。
当院の立地を考えても災害拠点病院化は必須でした。和歌山市は紀の川で南北に分断されています。就任した当時、市の人口の約40%が紀の川の北部に住んでいました。北部の公的主要病院は当院のみ。紀の川にかかる橋が津波や大洪水で流された場合、北部市民の救急治療を行うためにも、災害機能を充実させる必要があると考えました。
―機能面、地域での連携は。
2012年に和歌山県災害拠点病院に指定されました。ハード面では2015年に「災害医療研修棟」が完成。4階建てで、1階に健診センター、2・3階が医局と図書館や研究室、4階には多目的ホールと医薬品や水・食料等の備蓄庫を設けました。多目的ホールは平時は災害医療研修のためのスキルスラボや会議室として活用し、大規模災害が起きた時には200人程度が一時避難できるようにしています。
屋上にはヘリポートを設置。ドクターヘリの離発着が可能になりました。昨年11月には、同じくヘリポートがある和歌山県立医科大学附属病院との間でドクターヘリ訓練を実施。今年3月11日には、近隣住民にも見学に来てもらいました。ヘリの離着陸時には騒音や風害があるため、早朝や夜間の運用は行わないこと、そして何よりドクターヘリで広域搬送ができる強みを説明して、理解を深めてもらいました。
日曜の救急対応は、近隣の開業医の先生方にもご協力いただいています。災害時に多くの患者さんが当院に来た場合、近隣からの医師の応援は必須です。院内のどこに何があるといった内部を日ごろから知ってもらっていることでスムーズな対応が可能になるでしょう。いざという時のために普段から顔の見える関係をつくり、ともに救急医療を行うのは地域連携上、非常に大事なことだと思います。
開業医の先生方にサポートしていただくのは、若い医師の教育という面でも意味があります。コミュニケーション力、応急処置の技量が高いので、一緒に患者さんを診ることで勉強になることが多いのです。
―7月に大雨による災害が発生しました。
「平成30年7月豪雨」の際には、病院周辺の排水が悪いことが判明しました。建物1階の医療機器洗浄システムやトイレが使用できなくなったのです。そこで、医療機器の洗浄システムを上層階に移せないか、検討しています。
地域住民からの信頼を高めるためにも、災害に強い病院づくりに終わりはありません。今年10月20・21日には、「日本職業・災害医学会学術大会」をここ和歌山市で開催、会長を務めます。「勤労者医療・災害医療を支えるチーム医療と地域連携」をテーマに、全国から集まった医療関係者と意見を交わし、その内容をまたそれぞれの地域に持ち帰って実践に移していただく、そんな会にしたいと思います。
独立行政法人労働者健康安全機構 和歌山労災病院
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