岐阜大学医学部附属病院 高次救命治療センター 小倉 真治 病院長・センター長

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必要なのは決断力と正しい時間の感覚

【おぐら・しんじ】 香川県大手前高松高校 1985 岐阜大学医学部卒業 香川医科大学(現:香川大学医学部)麻酔・救急医学講座入局 1996 米サウスキャロライナ医科大学生理学講座客員研究員 2001 香川医科大学附属病院救命救急センター副センター長・助教授 2003 岐阜大学大学院医学系研究科救急・災害医学分野教授 2004 同大学医学部附属病院高次救命治療センター長 2014 同病院長

 北は北海道、南は沖縄県と、救急医を志す医師が全国から集まる岐阜大学の高次救命治療センター。「救急医療は初期診療開始までの時間が患者のその後を分けるので、時間の感覚が重要になるのです」と小倉真治センター長は語る。

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◎国立大学で4番目の救命救急センター

 1985年に岐阜大学を卒業した当時は、県内に救急医療を学べる施設がありませんでした。そこで、大阪大学医学部麻酔学教室の初代教授であり、香川医科大学病院(現:香川大学医学部附属病院)の初代病院長である故・恩地裕医師が基礎を築いた香川医科大学麻酔・救急医学講座に入局し、救急医としてのノウハウや知識を体得しました。

 2003年10月に岐阜大学救急・災害医学分野が開講し、私が初代教授として着任。国立大学では香川大学に続き日本で4番目となる救命救急センターを2004年に開設しました。

 高度救命救急センター、院内集中治療部門(院内ICU)、血液浄化部門、ドクターヘリの四つの部門から成る「高次救命治療センター」は重症外傷や熱傷、多発外傷、その他の院内外で発生する急性期重症患者を診療する中央診療部門です。

 年間受け入れ患者数は約1800人。そのうちドクターヘリによる受け入れが約300人、救急車による受け入れが約1500人です。

◎時間との勝負「その1分を削り出せ」

 岐阜大学に救急・災害医学分野が開講する前は岐阜県に救急医療を指導する機関がなく、各診療科の医師が兼任で救急医療を担っていました。

 一般の診療科と救急医療の大きな違いは「時間の感覚」にあります。初期診療の開始時間が1分遅れるごとに死亡率が2%ずつ上昇します。3カ所以上の損傷がある多発外傷の場合、救急要請から20分以内に処置を開始した場合は約90%が救命できているのに対し、50分経過すると約50%にまで減少します。

 循環器疾患の場合は、初期診療を開始するまでに要した時間によって社会復帰率に大きな差が生まれます。心筋梗塞の場合、発症から15分以内に初期診療を開始できればほぼ100%の患者が社会復帰を果たします。一方で、1時間を過ぎると約70%の人の脳に障害が残り、社会復帰できないというデータが出ました。

 脳卒中の場合は、脳の血管が詰まる、あるいは破れて出血するような大きなダメージを受けるため、15分以内に処置を施しても、すべての人が社会復帰できるわけではありません。

 ただ、疾患によって差はあれど、時間の経過が患者の救命率や社会復帰率を分けるということに間違いはありません。いかにして通報から初期診療開始までの時間を短縮するか。「その1分を削り出せ」が私たちのテーマです。

 そのための手段の一つが、ドクターヘリの活用です。現在、ドクターヘリの出動数は年間約600件。当院での治療を要する重篤な状態の場合以外は、患者や駆けつける家族の事情を考慮して、なるべく自宅から近い病院に搬送します。当院に搬送されてくる患者は受け入れ患者数の6分の1を占めています。

 今春にはドクターカーの運用開始も予定しており、ドクターヘリでは行けない場所でも、いち早く処置を開始できるようになると期待しています。

◎学生の学生による学生のための災害訓練

 高次救命治療センター・救急科には医師30人が在籍し、そのうち日本救急医学会の専門医が19人。その中の6人は指導医です。研修医は現在6人在籍していますが、岐阜大学の卒業生だけでなく、救急医を目指す人材が全国各地から集まってくるのも特徴です。

 自動車同士が激しくぶつかる事故の場合は、両方の車の運転手が搬送されてくるなど一度に多数の傷病者が発生するケースも少なくありません。しかしドクターヘリを利用する場合、ヘリに搭乗する医師の数は最大2人。救急医は、何人もいる患者をトリアージし、それぞれの重症度に応じて治療する順番を瞬時に決める力が必須なのです。

 そこで、早いうちからトリアージに慣れることを目的として、岐阜大学では医学部医学科4年生約110人を対象とした「多数傷病者受け入れ訓練」を1年に1回実施しています。学生が医師、患者、患者の家族、報道陣とそれぞれの役に分かれ、看護師と事務員の役は実際の職員が担当します。

 訓練の1カ月前に学生同士が相談の上、学年のリーダーを1人決定。選ばれたリーダーは副リーダーを5人ほど選び、彼らが医師役の指揮命令系統の中枢となります。

 患者役にはけがの特殊メイクを施すだけでなく、事前にそれぞれが負っている想定のけがの症状についても勉強して訓練に挑んでもらいます。

 訓練中、われわれ指導者が医師役の学生に助言することはほとんどありません。そればかりか、「手術室がいっぱいで患者を受け入れられない」など、実際に起こりうる問題を想定して状況ごとに負荷をかけ、学生の対応力を上げるように努めます。

 訓練の後はマスコミ役の学生による記者会見が開かれます。「あの時の初療は悪かったのではないか」などの厳しい質問に医師役の学生が応対する様子は、本物の記者会見と見違えるほど緊迫しています。

 この「多数傷病者受け入れ訓練」に限らず、訓練で重要なのは、自分たちで考えて体得すること。台本がない訓練で必死になった経験は、学生が医師になった後、たとえ救急を専攻しなくても、どこかで必ず生きてくることでしょう。

◎世界標準の災害医療支援指針を教育

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 約20年前、私はイギリスに渡り、イギリスで先駆的に研究されていた世界標準の災害医療支援指針「CSCATTT」に関する本「大事故災害時の医療支援」を持ち帰り、恩師である小栗顕二医師監修のもと翻訳しました。

 「CSCATTT」とは、多数傷病者が発生する事故や大規模災害時に医療機関が実践すべきアプローチを示したもので、コマンド&コントロール(指揮と連携)のC、セイフティ(安全)のS、コミュニケーション(情報伝達)のC、アセスメント(評価)のA、トリアージのT、トリートメント(治療)のT、トランスポート(搬送)のTの基本原則七つの頭文字を取った言葉です。

 2003年にCSCATTTが日本に導入されるまで、日本の災害医療支援指針は「医療支援」に関するTTTの概念しかなく、病院は個々に医療活動を展開していました。しかし、「医療管理」に関するCSCAの概念が導入されたことで指揮命令系統の縦の部分と関係する各機関との横の連携が確立したのです。

 医学科4年生による「多数傷病者受け入れ訓練」も学生が「医療管理」に関するCSCAに関与することができる訓練内容になっています。

 救急・災害医学分野としては南海トラフ地震をはじめとする大規模災害時、航空自衛隊岐阜基地(各務原市)が被災地と病院を結ぶハブとなり、協働して災害医療を展開します。

 院内においてこれまで救急医の育成に尽力してきました。全国から多くの人が集まり、マンパワーが充実してきたこともあって、医局員を関連病院や国内留学に送り出す余裕も生まれてきました。

 岐阜県の救急災害医療の最後の砦(とりで)として機能すべく、より広い視野を持ち決断力に富んだ救急医の育成に、今後も努めていきます。

岐阜大学医学部附属病院
岐阜市柳戸1-1
TEL:058-230-6000(代表)
https://www.hosp.gifu-u.ac.jp/


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