医療への意識を転換するきっかけに―。経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)実施施設となって約1年。福岡和白病院のチーム医療に少しずつ変化が現れている。
どうすれば治せるか?もっと前向きになった
―現在の感触は。
富永隆治院長(以下、院長)
いいハートチームが出来上がったと思います。
私は九州大学循環器外科教授を務めていた期間(2005年〜2015年)に、責任者としてTAVIの導入に携わりました。高齢の患者さんに貢献できる医療だと感じていましたので、ここ福岡和白病院でもぜひ早期に実施できるようにしたいと考え、準備を進めたのです。
心臓血管外科の中島部長、循環器内科の芹川部長が中心となってスタッフをまとめました。新しいことを始める際には、まずは「一致団結して取り組む」という雰囲気づくりがポイントだと思います。
中島淳博心臓血管外科部長(以下、中島部長)
実施施設に認定されたのが昨年9月。1例目は90代の患者さんでした。月に4、5例のペースで大きな合併症もなく、年間50例を目標としています。当院の体制なら、さらなる上乗せも可能ではないかと考えています。
現在、大動脈弁狭窄症(AS)の第一選択は開胸手術です。ハイリスクな高齢者の選択肢にTAVIが加わり、今後は中等度の方にも広げていいのではないかという流れに向いている。
もちろん安全性を第一に考慮した上で、手術が可能な方に対しても、われわれの中でのTAVIのウエートは大きくなっているのが現状です。
芹川威循環器内科部長(以下、芹川部長)
当院は福岡市で九州大学に次いで2番目に認定され、民間病院では初めての実施施設。ASの治療を目的として受け入れる大学病院とは異なり、多くは「心不全で入院されてASであることがわかった」患者さんの中からTAVIを検討していくことになります。
ハートチームが毎週集まり、対象となる患者さん一人一人についてディスカッションしています。多職種を巻き込んで新たなモチベーションを生み、活性化を促すことも導入の意義の一つだと思います。
中島部長
ASは専門の医師でも判断が難しい症状がたくさんあるのです。ご家族の話をよくよく聞いてみると「おじいちゃんは楽だからと言って、ベッドでなくマッサージチェアでいつも寝ている」。横になると苦しくなる心不全の症状が現れていたのですが、誰も気づかなかったのですね。
TAVIは従来の概念に対する「意識変革」だと思います。「高齢だから」と治療を諦めたり、見過ごされていたりした方々を「どうすれば助けることができるのか」。そんなふうに、院内全体が前向きに考えていこうという意識に変わってきている。
芹川部長
骨折した高齢患者さんにASが見つかったと当院に紹介された例もありました。整形外科が足を手術した後にわれわれがTAVIを実施。リハビリもしっかり終えて、元気に歩いて退院されました。
医師もメディカルスタッフも、治療に関わったみんながとても喜んでいたのが印象的でしたね。成功体験は「次も頑張ろう」という意欲につながります。チーム医療の醍醐味を感じる瞬間です。
始める目的は何かを忘れてはならない
―みなさんが「得たもの」とは何でしょうか。
院長
TAVIを始めるには人的、設備的な投資がかなり必要ですし、デバイスも高額。経営的な効果を第一に期待するものではないと思います。
「チーム医療」というコンセプトが最も重視される医療ですから、院内の結束力を強め、モチベーションをアップさせるのは間違いないでしょう。その点で大きな価値があります。
芹川部長
やってみて気づかされたことがたくさんありますね。一つは、特に若手の医師に積極的に参加してほしいと感じたこと。
中島先生がよく言うのは「心臓弁膜症チームをつくりたい」。これから診療科の垣根はどんどん取り払われて「誰もがチームの一員」という時代になる。まさにTAVIは一つの象徴です。TAVIを通じてチーム医療を学びたいという医師を歓迎します。
中島部長
意識の変革という意味では患者さんもそうです。「年だから手術は結構」という方にTAVIのことを伝えると「やってみようかな」。
患者さんの要望に応えられる「幅」をもっておくことが大事だと思います。「新しい治療だから」取り入れるのではありません。早く元気になってお帰りいただく。そのための医療だということを忘れてはいけないと思います。
社会医療法人財団 池友会 福岡和白病院
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