圧倒されるほどの熱意が今も受け継がれている
生産年齢人口、出生数ともに増加傾向にあり、JR中央線沿線を中心に町は活気づく。そんな武蔵野市で高度急性期病院の道をひた走る武蔵野赤十字病院。成長の歴史は、泉並木院長の挑戦の軌跡とも重なる。
―ご専門は肝臓ですね。
当院に勤務して33年目に入りました。着任当時、C型肝炎ウイルスは未発見。肝臓がんの患者さんが非常に多かったのですが、有効な治療法はなく、安静にしておくしかなかった時代です。これから新しい医学がどんどん生まれていくだろう。その発展に挑もうと考え、肝臓を専門にしようと決めました。
1989年にC型肝炎ウイルスが発見され、1992年にインターフェロン、その後ペグインターフェロン治療が開始。「ウイルスが消える」という劇的なことが起こり、さらに近年、経口薬だけのインターフェロンフリーで治療できるようになりました。
この間、私は1996年にマイクロ波熱凝固療法を開始。マイアミ大学の招待を受け、1999年、米国での1例目としてライブデモを実施しました。同年の後半以降はラジオ波焼灼術の実績を重ね、年間300を超える症例数を維持しています。
ラジオ波焼灼術を学ぶためにたくさんの若い医師が当院に集まり、学会発表や論文執筆に取り組みました。まさに圧倒されるほどの熱意でしたね。ウイルスの発見から克服まで、すごい時代を過ごせたと思います。
そんな私自身の経験もあって、当院では新しい治療法へのチャレンジなども奨励しています。およそ250人の医師たちのモチベーションは、とても高いと思います。
―新病院の建設計画が進んでいます。
2021年春のオープンを予定しています。586床の計画で、すべて個室の仕様にします。
現在、1日当たりの救急入院が30人、予定入院が40人ほど。平均在院日数は10日です。ただ、それ以外にも、男女の制約などで受け入れることができない患者さんがいるのです。個室にすることで救急入院に対応しやすくなり、病床稼働率が高まると考えます。
手術件数の増加に伴って手術室を現状の9室から12室に増設。ロボット手術やハイブリッド手術など、先端的な医療を提供できる環境を整備します。
また、災害により強い病院であることも特徴の一つです。免震構造であることはもちろん、350人ほどを収容できる講堂を建設します。首都直下型地震など有事の際には、当院が災害拠点病院としての役割を果たすとともに、全国に92ある赤十字病院から救護班が駆けつける。協力体制が確立されていますので、地域のみなさんに心強く感じてもらえるのではないかと思います。
―今後の運営方針は。
高度急性期病院としての機能強化に努めます。軸になるのはがん診療。全国から患者さんが集まる肝がんをはじめ、婦人科系がんの症例数も東京都で上位に位置しています。手術、腹腔鏡手術、カテーテル治療など、それぞれの領域で高度な技術を有した医師が勤務しているのが強みです。
ここ北多摩南部医療圏は中央線沿線を中心に生産年齢人口が増加している国内でも珍しい地域。働きながらがんの治療を続けている方がとても多いのです。
遠くの医療機関に行かずとも地域で質の高い医療を受け、仕事と両立するためのサポートにも力を入れています。外来化学療法や放射線治療、あるいは診断直後からスタートする緩和ケアの充実を図っているほか看護師が医療費などの相談を受け付ける外来システムも用意。あらゆる面でがん患者さんに「安心」を届けたいと考えています。
いい医療で社会に貢献していくことが、結果として病院経営にも好影響を及ぼす。その思いだけは、決してぶれることのないよう肝に銘じています。
武蔵野赤十字病院
東京都武蔵野市境南町1-26-1
TEL:0422-32-3111(代表)
http://www.musashino.jrc.or.jp/