愛媛大学大学院医学系研究科 小児科学講座 教授 会長 石井 榮一

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第59回 日本小児血液・がん学会学術集会
がんを経験した子どもにずっと安心できる生活を

【いしい・えいいち】 福岡県立田川高校卒業 1979 九州大学医学部卒業1991 カナダトロント小児病院免疫腫瘍科研究員 2001 佐賀大学医学部小児科准教授 2007 愛媛大学大学院医学系研究科小児科学講座教授

 「子どもたちのライフステージに応じた、長期的なサポートの充実が急務」と訴えるのは、第59回日本小児血液・がん学会学術集会の石井榮一会長。小児がん診療への関心が高まり、環境整備が進むが、議論すべき課題は多い。「視野を広げるきっかけになれば」と石井会長は期待を込める。

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―テーマを「地域から描く子どもの未来図」とした理由は。

 都市部であろうと、地方であろうと、すべての患者さんは、等しく質の高い医療を受ける権利があります。

 現実として交通の利便性や医師の充足度には地域差があり、かならずしも均質な医療が提供されているわけではない。ここ数年の小児医療、とりわけ小児がんの領域などでは、非常に大きな課題としてクローズアップされています。

 小児がんは年間で2000人から2500人ほどが発症すると言われており、成人のがんと比較すると極めて少ない。診療の機会が非常に限られています。

 厚生労働省による「小児がん医療・支援のあり方に関する検討会」は、2012年公表の報告書で「小児がん施設はおよそ200と推定され、経験不足により適切な医療を提供できていない可能性がある」と指摘。

 北海道から九州までの地域をブロックに分けて「小児がん拠点病院」を整備し、医療機関の一定程度の集約化が必要だと提言しました。

 私は2012年に発足した「日本小児血液・がん学会」の初代理事長に就任。15の小児がん拠点病院の選定に携わり、医療機関の集約化を推進。各施設の患者数を増やすことで医療の質の向上を図りました。

 中四国ブロックでは広島大学病院を小児がん拠点病院に、「小児がん中国・四国ネットワーク」を構築しています。

 広島、鳥取、島根、岡山、山口、徳島、香川、愛媛、高知、兵庫、福岡の20の医療機関で、コンソーシアムを形成。テレビ会議などで密に連携を図り、中四国地域の小児がん診療の均てん化に努めています。

 各ブロックの取り組みが進めば、日本のどこにいても、子どもたちに最適な医療を届けることができる。「第59回日本小児血液・がん学会学術集会」のテーマを「地域から描く子どもの未来図」としたのは、このような近年の動きについて、議論を深めていきたいと考えたからです。

―どのような視点でプログラムの作成を。

 主題の一つは、「小児がん患者をどのように長期にフォローアップするか」です。

 成人と子どものがん治療の違いは、どのような点だと思いますか? 成人、特に高齢者のがんは、数年の延命治療なども選択肢として考えられます。しかし、子どものがんは「治癒」が第一。病気を克服してずっと年を重ねてほしいと、ご家族は願うわけです。

 逆に長期生存するということは、30年、40年にわたり、リスクがつきまとうということ。体の発育に伴い、治癒からずいぶんたって晩期合併症が現れることもあります。

 患者さんは就職や結婚に対する不安が拭えず、周囲の偏見も、残念ながらいまだゼロではありません。女性なら「将来、子どもを産めるのだろうか?」と悩み続けることもあるでしょう。

 小児がん経験者を当たり前のものとして受け入れる「成熟した社会づくり」も見据えた医療が必要です。

 座長に石田也寸志先生(愛媛県立中央病院小児医療センター長)、山口(中上)悦子先生(大阪市立大学医療安全管理学准教授)を迎えるシンポジウム「小児がん患者の治療中のQOLの向上を目指して」のほか、いくつかの長期フォローアップに関するプログラムを用意しています。

 がんを治せば終わりではない。子どもたちの人生設計にまで踏み込んだサポートを考える機会にしたいと思います。

―海外のゲストも多い。

 現在、標準治療による小児がんの平均治癒率はおよそ8割だと言われています。では、残る2割をどう助けるか―。

 高橋義行先生(名古屋大学小児科教授)と、米国のジャンピエトロ・ドッティ先生(ノースカロライナ大学チャペルヒル校)を座長に、シンポジウム「Chimeric AntigenReceptor(CAR)T細胞療法」をセッティング。がん治療の最前線を届けます。

 通称「CAR-T細胞療法」は、米国で開発された免疫療法です。

 患者さんのリンパ球を採取して「がん細胞だけを認識して攻撃する」遺伝子改変を加えて増幅させ、再び血液に戻す。各国で注目され、実施例も増加しています。

 中国やヨーロッパは標準治療に組み込む方向に動いています。日本では保険適用外ですが、いずれ海外に追随するでしょう。治癒率の向上が期待できると思います。

 小児がんの患者さんの中には、国内での治療を諦め、中国にわたりCAR-T細胞療法を受けているケースもある。「ドラッグ・ラグ」(海外では承認されている医薬品が日本国内では使用できない状態)に象徴されるように、新たな治療法や新薬に関して、日本と世界の仕組みは違う。

 ただ、近年は少しずつドラッグ・ラグの間隔も狭まり、国の制度運用も柔軟な方向へシフトしつつあるようです。

 これまで国内の小児血液・がんのスペシャリストに講演を依頼していた「Meet The Expert」企画は、新たな試みとして、欧米から招待した第一線の先生方と、国内の若手研究者との討論形式にします。

 CAR-T細胞療法をはじめとする各国の治療法の動向など、これからの時代は、もっと視野を広げなければならない。

 海外の医療者が何を考え、どんなことに取り組んでいるのか、ぜひ肌で感じ、刺激を受けてもらいたいと思います。

―あらためて、メッセージをお願いします。

 もちろん、がん以外の疾患を取り上げるプログラムも準備しています。血友病の新しい抗体医薬のことや、遺伝子治療の話題など、小児の血液疾患の領域を幅広く網羅する会にします。

 子どもが病気であるということは、その親もきょうだいも「家族全員が病気」なのです。家族みんなが同じように悲しみ、苦しみ、治れば喜ぶ。小児科医にとって大事な視点だと思います。

 家族を助けるために私たちができることは、きっと世界中から最良の医療を探し出し、疾患に立ち向かうことでしょう。

 だからこそ、医療者は従来の枠組みから、インターナショナルな思考に切り替える必要がある。この学会が、みなさんの気づきを促す場になればうれしいですね。

第59回 日本小児血液・がん学会学術集会

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【主なプログラム(予定)】

11月9日(木)「Chimeric Antigen Receptor(CAR)T細胞療法」
座長:高橋 義行(名古屋大学小児科教授)、ジャンピエトロ・ドッティ(米国ノースカロライナ大学チャペルヒル校)11月11日(土)「小児がん患者の治療中のQOLの向上を目指して」
座長:石田 也寸志(愛媛県立中央病院小児医療センター長)山口(中上) 悦子(大阪市立大学医療安全管理学准教授)

会期:11月9日(木)~11日(土)
※第15回日本小児がん看護学会学術集会、第22回公益財団法人がんの子どもを守る会公開シンポジウムと同時開催
会場:ひめぎんホール(松山市)
運営事務局: 株式会社コンベンションリンケージ
TEL:06-6377-2188
学会HP:http://www.c-linkage.co.jp/jspho-jspon2017/


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