ナビゲーション導入で安全性の高い手術に
三重大学整形外科学講座では、関節鏡、顕微鏡、手術用ナビゲーションシステムなどの最新機器を使い、低侵襲で安全な治療に努めている。同講座の臨床・研究への取り組みについて湏藤啓広教授に聞いた。
―講座の特徴は。
当講座は大きく分けて六つの班に分かれています。①関節班②骨軟部腫瘍班③脊椎班④上肢外科(手外科)班⑤リウマチ班⑥スポーツ整形外科班です。
関節班では股関節、膝関節、肩、肘などの疾患を専門にしています。私の専門は股関節で、主に「MIS(最小侵襲手術)」による人工関節置換術に携わっています。股関節であれば7〜8㌢程度の傷で済む手術です。
さらに特徴は「手術用ナビゲーションシステム」を使用していることです。2007年に膝関節置換術に、2011年に股関節置換術に導入しました。
手術用ナビゲーションシステムは、術中の患者さんの関節と手術器具の位置を赤外線でリアルタイムに検出して画面に表示し、処置の結果をその場で確認することができます。
このシステムを使うことで、術中の人工関節の位置を定量的に確認することができ、正確な設置が可能となります。微妙なずれなどによる術後の不具合が解消されるため、人工関節がより長期的に機能するようにもなりました。
人工関節を使う上で最も重要なのは、人工関節の可動部位となる摺動(しゅうどう)面に使う素材選びです。現在、ポリエチレンとセラミックが広く使われています。当講座で採用しているのは、第二世代のハイリークロスリンクポリエチレンとセラミック骨頭の組み合わせです。
この素材を使った患者さん68人が5年間で1人も再置換術をすることなく股関節機能を維持したというデータが出ています。これからますます耐久性が上がっていくでしょうね。
手術用ナビゲーションシステムは、脊椎を金属で固定する「インストゥルメンテーション手術」にも使用し、手術の安全性を高めています。全国的に見てもインストゥルメンテーション手術にこのシステムを導入している医療施設はまだ少ないと思います。
骨軟部腫瘍班は、四肢にできる肉腫を手術によって摘出。がんの一種である肉腫に対し、抗がん剤や放射線を用いた治療にも取り組んでいます。
脊椎班が積極的に取り組んでいるのは、加齢による椎間板変性によって起きる「変性側弯(そくわん)」の治療です。腰椎を固定する「側方椎体間固定術」を行っています。この手術は、体の側面から特殊な開創器を使って行うため傷口が小さく、低侵襲です。
上肢外科班は、マイクロサージャリー(微小外科手術)による欠損した指の再建や、指、肘、肩に上肢内視鏡を用いた手術、人工関節置換術を実施しています。症例によっては関節班や骨軟部腫瘍班と連携を取りながら手術を進めています。
スポーツ整形外科班の主な仕事は、関節鏡を使った鏡視下手術による靱帯(じんたい)や半月板などの修復です。半月板が切れている場合には縫合しますし、前十字靱帯の再建術もしています。
足関節の固定術、腱の脱臼、軟骨損傷など、足関節の疾患の多くにも鏡視下手術をしています。
当講座には毎年5、6人ほどの学生が入局し、そのほとんどは大学院に進みます。臨床研究、基礎研究ともに一生懸命取り組み、海外での学会発表や論文発表もしています。例年2月〜3月に開かれる「アメリカ整形外科基礎学会」には、毎年13〜15演題を報告していますし、20〜30の英語論文も発表しています。研究に対するアクティビティーが非常に高い教室だと思います。
―超高齢社会となった今、整形外科医のニーズが高まっています。
高齢の患者さんが増えているにもかかわらず、整形外科医の数は思うように増えていません。本学から三重県下のほとんどの病院に整形外科医を派遣していますが、まだまだ足りない。整形外科医の魅力を知ってもらうため、学生向けの研究会や勉強会などを開いていますが、厳しい状況です。
整形外科医の役割は、患者さんのADL(日常生活動作)を改善し、QOL(生活の質)を維持することです。患者さんのほとんどが痛みや、四肢または脊椎の機能障害を抱えて受診され、治療を受けると痛みが無くなったり、機能が回復したりしたことを実感されます。治療の結果がはっきり出るので、ごまかしが利きません。しかし、その分やりがいも大きいと思います。
今後はますますAI(人工知能)が医療・医学の分野に進出してきます。診断学においてAIに取って変わられる部分も増えてくる。患者さんのデータを入力するとコンピューターが診断してくれる時代がすぐそこまで来ています。
外科学においても、ロボティックサージェリーが進歩していますが、それを操作するのはわれわれ外科医です。整形外科医として、手に職をつけておけば、医師として長く仕事を続けられます。そういった意味でも、ぜひ多くの学生に整形外科医を志してほしいですね。
―今後の取り組みは。
私は、三重大学の研究によるデータなどを基に、骨粗しょう症に関する講演会を年間30回ほど全国で開いています。
国内の患者数が約1200万人といわれている骨粗しょう症ですが、実際に治療を受けている人は200〜300万人程度です。
骨粗しょう症自体は自覚症状がありません。転倒などで骨折して初めて骨粗しょう症であることがわかるケースが多い。高齢になればなるほど、骨折で入院すると、そのまま寝たきりになってしまう可能性も高まります。そうなる前に、きちんと検査をして適切な治療をすることが重要です。今は骨を強くする薬も開発されています。骨折予防のための啓発活動を続けていきたいですね。
また、今年7月に第248回整形外科集談会東海地方会を、2019年には中部日本整形外科災害外科学会・学術集会を当校が主幹校となって開催することになりました。学会の成功に向けて、新しい情報を取り入れながら、教室一丸となって取り組んでいきたいと考えています。
三重大学医学部附属病院
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