皮膚炎のコントロールが臓器不全のリスクを下げる
慢性の皮膚炎がさまざまな内臓疾患に関係している可能性がある―。2014年、山中恵一教授(当時は准教授)らのグループが発表した研究成果だ。従来の認識は「皮膚疾患の影響は皮膚のみ」。それを見直すきっかけを提供し、臓器不全などの合併予防に新たな視点を示した。
―皮膚疾患に関する近年の動きは。
2010年に「重症の乾癬(かんせん)患者は平均寿命が6年短い」という海外の調査結果が報告されました。乾癬は動脈硬化のリスクを高め、心筋梗塞や脳血管疾患などを起こしやすくすると言われています。
皮膚の慢性的な炎症は免疫機能に関わるタンパク質であるサイトカインを過剰に産生させます。これらが血中に入り込んで血管内皮を傷つけ、血管を固くしたり、細くしたりすることで動脈硬化に至ると考えられているのです。
近年、アトピー性皮膚炎や重症な湿疹など、難治性の皮膚疾患や皮膚アレルギーの患者さんは増加傾向にあるとみられています。いずれもサイトカインを過剰に産生させるという点で乾癬と共通しています。
皮膚は人間の体で「最大の免疫組織」。皮膚の病変が免疫機能に影響し、全身的に何らかの障害が及んでしまう。その可能性は十分に考えられます。しかしながら、そのメカニズムについては、あまり研究が進んでこなかったのです。
―研究の内容は。
長期の観察研究を始めるに当たり、2種類の自然発症皮膚炎のモデルマウスを作成。インターロイキン1(IL-1)をはじめとする炎症性サイトカインの過剰な産生が、心血管障害、脂質代謝異常、全身性アミロイドーシスを生じさせる可能性を検討しました。
肝機能の異常や腎機能低下を伴うなど、慢性の皮膚炎が臓器不全に至ることを示す結果が得られました。また、脳底動脈の直径が狭くなり、脳機能の低下が見られました。
内臓病変の一部については、IL-1 抗体の投与によって改善が期待できることが分かりました。つまり炎症をしっかりとコントロールすることで、内臓疾患などの合併症を予防できるかもしれないのです。
慢性的な皮膚炎が臓器だけでなく脳の病気にも影響することを、今年5月、米国の皮膚科専門学術誌で発表。世界各地から反響がありました。
―これから大切なことは。
乾癬患者の平均寿命や皮膚炎と内臓疾患との関わりといった近年の研究については、いまだ皮膚科医の中でも十分に共有されていない側面があると感じます。皮膚炎のコントロールの重要性を認識していくことが重要だと思います。
例えば三重県にもいくつかの皮膚科医のいない地区があります。へき地では医師の不足により、適切な皮膚科領域の医療が提供できていないケースもあるでしょう。医療者も患者さんも「皮膚だけの問題」と捉え、長期にわたって疾患が放置されてしまっている可能性があります。
皮膚疾患の重症化は、多様な症状や外見の変化などによって、著しく生活の質を低下させることも少なくありません。中には重度のストレスから心身の状態が弱ってしまい、「外出したくない」と、家に閉じこもってしまう方もいらっしゃいます。
乾癬の治療の選択肢としては薬を塗る、飲む、紫外線を照射する「光線療法」に加えて、2010年、サイトカインの働きを抑制する薬剤「生物学的製剤」が承認されました。現在、数種類の生物学的製剤が使用可能です。
また、今年、アトピー性皮膚炎に対して初めてとなる「抗体医薬」が登場するなど、皮膚疾患の治療は変わり続けています。
皮膚科医の役割はますます重要になるでしょう。だからこそ、正しい情報を伝える努力を続けなければならないと思っています。
三重大学大学院 医学系研究科皮膚科学
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