広域連携で地域医療の将来を守る
三重県名張市は、県西部の伊賀地方に位置する人口約8万人の市。市内を近鉄大阪線が走り、大阪府や奈良県のベッドタウンとして発展した。かつては多くの大規模住宅地が造成され、一時は人口増加率日本一になるが、現在は全国平均を上回る速度で高齢化が進んでいる。1979 年に実施された住民アンケートで総合病院の建設を望む声が一番多かったことをきっかけに建てられた市立病院は、社会情勢や人口動態の変化にどう対応するのか。伊藤院長に聞いた。
医師不足の原因
市民の強い要望で開設(1997年)された病院ということもあって、最初は「市民のために、なんでもしなければならない」と、気負ったところがあったようです。そのうちに、医師が無理な勤務体制を強いられるようになりました。その結果、市民のために働くのは当然だとわかっていながら、それでも「やっていられない」と思い始めた医師たちがどんどん辞めるようになりました。
▲研修医を対象とする隠サマーキャンプは、地域住民と触れ合い、「地域で暮らす患者さんのニーズを知る」ことを目的に毎年開催されている。今年(第4 回)は、「研修医、非専門医のためのこんな時は俺を呼べ企画~脳神経外科」や「実践!家庭医療的ケースカンファレンス」など3つのワークショップを実施した
小児科医も身体を壊して辞めてしまったため、結局、小児を診る医師がいなくなりました。他の科でも似たようなことが起こっていた。しかも、2004年から新臨床研修制度が始まり、若い医師は症例をたくさん経験できる都会の病院を選ぶようになりました。
ここに至ってようやく、「医師がいなかったら病院は機能しない」と気付いたんですね。医師も人間なのですから、あまりにも無理な勤務体制では壊れてしまいます。
住民を守るためには医師を守らなければならないと気付いた市は、まず市民への啓発活動を中心に改革を進めました。
当時は「昼間は忙しいし、病院も混んでいるから」という理由で、夜間に受診する方がよくいました。まずはこの状況を改善しなければならなかったので、医師会にも協力していただいて、紹介状がないと受診できない体制(完全紹介外来制)をとりました。
紹介状制度をとるかわりに、かかりつけ医の重要性についても、何度もシンポジウムを開くなどして市民のみなさんに理解していただきました。ようやく「いつでも、なんでも」というコンビニ受診的な状況が変わってきたところです。
広域医療連携の必要性
当院の基本的な役割は、開業医と市中病院、総合病院のバックアップとして、2次救急を担うということです。ただ、医師が少ないため、救急については輪番制をとらざるをえない状況です。
2008年から当院が48%、上野総合市民病院が27%、岡波総合病院が25%という受け入れ比率で2次救急輪番体制がスタートしました。その後、当院の比率は50%となって現在に至っています。
輪番制をとってはいますが、医師が不足したせいで穴を開けてしまったこともありました。そういう事態をなくすために、伊賀地域の整備計画検討委員会では、病院組織の統合について議論を進めていました。
しかし、総論では統合賛成となっても、各論の部分でさまざまな問題が浮上したために、計画がとん挫してしまいます。たとえば、どこが回復期を受け持つのか、どちらが救急をやるのか、といった詰めの部分で合意することができなかったのです。そもそも、統合しようにもそこで働く医師がいないという問題が大きかったですね。
個人的に、この地域の医療を守るためには、隣接する伊賀市と名張市が別々に動くべきではないと思います。
ひとつの医療圏として動くために病院統合は避けられないし、いわゆる「ゆるい連携」という形で医療圏域をひとつのものとしてとらえるべきでしょう。医師の異動や職員の異動もある程度できるようにして、連携の充実を図る。単独の病院がいくら懸命にがんばったとしても、200床しかないので細かく急性期や慢性期に分けても力が発揮できません。
医療圏の中で急性期や慢性期に分類し、救急には若い医師を集めて、あとは在宅医療のための連携システムを作る。そういった大きな変革が必要で、それがなければ、将来的にこの地域の医療を守り続けることは難しいと思います。
名張市立病院
三重県名張市百合が丘西1 番町178 番地
☎0595・61・1100(代表)
http://nabari-city-hospital.jp/