どん底からのV字回復 誇りを胸に一歩ずつ
医師不足などで医療崩壊の危機を迎えていた東近江市。打開策として「滋賀県地域医療再生計画」が策定され、病院の再編成が始まった。5年前、その屋台骨として始動したのが東近江総合医療センター。手探りで走り続けたトンネルを抜け、地域の中核病院としてよみがえった。
―10年前、院長に就任されました。
私が滋賀医科大学からここへ赴任したのはそれよりさらに前の2000年。前身である国立八日市病院と国立療養所比良病院が統合し、国立滋賀病院となった年のことです。
市内には能登川病院、蒲生病院の二つの市民病院があり、当院も含めて医師はほぼ京都府立医科大学からの派遣。新医師臨床研修制度が引き金となり、大学が医師を引き上げた結果、3病院とも医師が減り、最終的に当院の医師は12人にまで減少したのです。5病棟のうち二つを閉鎖し、入院患者も80数人にまで激減。「あの病院、つぶれるらしいで」と噂されるほどでした。
そんな中、2010年に県、市、滋賀医科大の協定で再生計画が策定され、3病院が再編成されることに。当院は2013年に320床の中核病院として再始動しました。100床増加で大変でしたが、年々業績は回復。入院は約250人、外来は1日約500人と、本来の姿に戻りました。医師は研修医含め50人以上に。10年前からすれば、まさにV字回復です。
―病院の強みと課題は。
東近江医療圏での役割は、ここで治療を完結するということ。放射線治療機器があるのは当院だけなので、がん医療の担い手でもあります。
呼吸器を診る病院がほとんどないので、呼吸器疾患のシェアが高く、さらに消化器疾患の患者数も多い。逆に心臓血管外科や脳外科はないので車で15分の民間病院と提携しています。
さらに東近江医師会は、当院の敷地内。互いに顔が見える関係の中で患者さんを診られるのは非常にありがたいですね。
80年近く前から「国立さん」と親しまれてきた影響で、今も新患が紹介状なしで来院するのが、うれしい反面、経営的にはネックです。2017年度の紹介率は約50%、逆紹介率は約40%で、地域医療支援病院の指定が取れないのです。
赤字も問題です。少しでも補完しようと、昨年7月には地域包括ケア病棟を開設し、今年4月にはDPCを導入。再来年あたりには減価償却が減って収支はプラスマイナスゼロになる予定ですが、その後、また投資が必要になる。完全な黒字化は難しいでしょう。
「国立」と冠していますが税金収入はゼロ。消費税負担の問題もあり、経営面は厳しさを増しています。なんとか知恵を絞るしかないですね。
病院再編成の際、滋賀医科大、県、市、国立病院機構で協定を締結し、当院に寄付講座が開設されました。今は総合内科講座と総合外科講座に格上げされ、滋賀医科大の分校としての役割も。研修センター「スキルスラボ」などで、熱心に指導にあたっています。また2年前には基幹型臨床研修病院の指定を受け、昨年までは年に1人だけでしたが今年は4人の初期研修医が来ました。
働く職員の学びもサポートしています。学会発表の出張費は無制限で出し、認定看護師の資格取得も補助。しっかり勉強して成長できる、スタッフにも選ばれる病院を目指します。
昨年11月に、初めて病院機能評価を受審。これまで目の前のことを必死にこなし、走りながらやってきました。ようやくここまできた、と感慨深く、本当にうれしかったですね。
ここまでは助走です。「ホップ」でハード面を整え、「ステップ」で人を育ててきて、今「ジャンプ」の段階を迎えました。職員一丸となって躍進したいと思っています。
独立行政法人国立病院機構 東近江総合医療センター
滋賀県東近江市五智町255
TEL:0748-22-3030(代表)
http://www.shiga-hosp.jp/