地域に貢献する最先端の医療を
出雲大社本殿の遷宮が行われた2013年、島根大学医学部附属病院も病院の大改修を終え、開院以来の理念である「地域医療と先進医療が調和する大学病院」としての施設と医療機器を整備した。
井川幹夫病院長に、病院の取り組みについて聞いた。
◆信頼される病院に
大学病院としての診療・教育・研究をより一層、推進していかなければなりません。当院では、大都市と同等か、それ以上の医療を提供しているという自負があります。本院以外の基幹病院とも協力しつつ、県唯一の大学病院として、より高度な医療を提供していくつもりです。
島根大学病院の理念は「地域医療と先進医療が調和する大学病院」です。これまで島根大学といえば地域医療に強いというイメージを持たれがちでしたが、大学病院としての高度医療、臨床研究を推進し、周囲の認識を変える必要があると思っています。
◆IBDセンター
国の特定疾患に指定されている炎症性腸疾患(IBD)の患者さんを総合的にサポートすることを目的に昨年12月、山陰地方初の「IBDセンター」を設置しました。
近年、潰瘍性大腸炎とクローン病を主とする原因不明の難治性疾患の患者さんが増加しています。患者数の急速な増加と治療法の多様性の観点から、消化器内科医だけでなく消化器外科医、精神科、薬剤師、看護師などのスタッフでチームを構成し、診断、治療を円滑に行うとともに患者さんの就学や就労の支援も手掛けています。
◆しまね治験ネット
昨年9月から島根県立中央病院と連携し「しまね治験ネット」をスタートさせました。、治験手続きの効率化、症例エントリーの迅速化、地域で、より多くの治験を円滑に実施することを目指しています。
本院の臨床研究センター治験管理部門にネット事務局を設置し、受け入れ窓口の一元化と審査、手続き、書類などを統一することで、合同で治験を実施することが可能となりました。これにより治験依頼者にとっての事務手続きや申請書類作成などの負担軽減、治験経費の削減を図ることができ、治験件数の増加が期待できます。
また、病院間で連携することにより、十分な治療効果を得られていない患者さんなどへ、治験という新たな治療法を提示できるというメリットもあります。
◆高度外傷センター設置
2013年の厚生労働省のデータによると、島根県の不慮の事故による死亡率(人口10万人当たり)は、全国7位です。その要因として、外傷救急医療体制の大都市と地方の地域格差が反映していると考えられます。
外傷診療の質の向上のためには、交通事故に限らず、重症、中等症以上で専門的な外傷治療の適応となる患者さんを集約し、ハイボリュームセンターとして機能する医療機関の設置が求められていました。
当院では2015年6月に全国の大学に先駆けて医学部の臨床系に「外傷外科」「救急外科」「外科的集中治療」の3領域を統合した「Acute CareSurgery 講座」を設置しました。
また、今月には「高度外傷センター」が稼働します。施設は現在の救命救急センターを使用しますが、来年5月に救命救急センターの隣に新たな高度外傷センターが完成する予定です。
今年の1月には教授、4月に2人の外傷専門医が赴任し、来年度には8人以上のスタッフを確保する予定です。計画通り人員の確保ができれば、ドクターカーやドクターヘリによる外傷救急診療も実施する予定です。
重症外傷患者の救急には、救急初期治療、緊急CT、緊急血管造影(+IVR)、緊急手術を同時に実施できるハイブリッド手術室の設置が必須です。
高度外傷センターに設置するハイブリッド手術室は外傷患者の診療のみでなく、心肺停止患者に対する緊急経皮的心肺補助法(PCPS)、大動脈瘤に対するステントグラフト挿入術、大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)などにも活用する予定です。
◆理事長を務めるしまね地域医療支援センターについて
大学、県、市町村、県内の病院が会員となり運営している一般社団法人です。事務所は病院の敷地内にあるみらい棟内にあり、同じフロア内に初期研修医室などがあります。
同センターは地域枠の学生や卒業生など卒後10年程度までの医師のキャリア形成支援を行う役割を担っています。私が理事長になってからは、地域枠ばかりではなく、島根に軸足をおいて頑張っていこうという若手医師の支援にも力を入れています。
しまね地域医療支援センターに寄せられている市町村や周辺病院からの期待をひしひしと感じています。その期待を裏切らぬように、若手医師のみなさんが新制度の専門医や医学博士の学位を取得し、多様なキャリアプランを実現できるように最大限のサポートをして、多くの優秀な人材を地域に輩出していきたいですね。