▼本号3面で原口病院循環器科内科の原口信一理事長が、「家に帰れば仕事の苦労をほとんど忘れられた」と語り、18面ではわきだ整形外科の楊昌樹院長がインタビューの最後に、「たまには忘れる力も必要」と述べている。姉妹紙中四国医事新報でも60代の病院長が、当紙記者との雑談の中で、再生医療で過去のすべてを克明に記憶できるようになったら、人間は自ら命を絶つだろうと笑ったという
▼忘却はこれからを生きていくために大切だ。今日も頑張ろうと力がみなぎるのは、忘れられる安心感があるからかもしれない
▼「忘れる」で思い当たるのは、高齢の認知症者が自分の子供を忘れることである。これを「忘却の恩恵」ととらえれば、子供をずっと背負って生きて来て、晩年にようやく降ろして楽になれたとも理解できる。子供がそこでうろたえたのでは、降ろされたことへの不満のようにも思える
▼世間という集団生活から解放されて自由を得、名前さえ不要になった。これを「和の実学」の著者大和信春氏は「自由認知」と表現している。