ハンデキャップのある人をやわらかく包むふたつの風
だんだんボックス実行委員会
高島福岡市長に申し入れをした近藤事務局長、神崎打表、彫刻家の鎌田さん、鵜飼九大大学院准教授。(左から=8月29日福岡市役所で)事務所は福岡市中央区渡辺通2-8-12-602
電話:092-406-9815
障害を持つ人たちのアートと地域を結び、ビジネスモデル化して経済的自立を目指す「だんだんボックス実行委員会」の活動が急速に広がっている。今月21日に博多大丸パサージュ広島で発足一周年の記念イベントを開き、名古屋や東京の支部からも支援者が駆けつける。
ことの発端は神崎邦子さん(現代表)主催の講演会に九大大学院の鵜飼哲矢准教授(44)が講師として招かれたこと。
講演を聞いた彫刻家の鎌田恵務さん(49)が、障害を持つ人たちの素朴な絵を自立結びつけたいと鵜飼准教授に相談し、鵜飼さんの部屋に段ボール箱がいくつもあったことから、これを活用できるのではと思いつき、試験的に博多大丸のエステサロン「アントレ」に展示したところ思いがけないほど好評だったという。
「町は、動かない物と動く物で構成される。どちらにもこんなやわらなかなアートがあればもっと暮らしやすい町になる」。建築家の立場で鵜飼さんはそう話す。鵜飼さんら三人は「だんだんボックス実行委員会」を発足、代表に神崎さん、そして事務局は経営に明るい近藤秀二さん(70)に頼んだ。
「障害を持つ人が商品化できる作品を作ることで、社会の一員として活躍できる仕組みを作りたい」と神崎代表は語る。
作品をコーディネートしている鎌田さんも「日本の各地で、才能ある障害者とデザイナー、そしてその周辺の理解者が手を結ぶソーシャルビジネスとして発展して行けば」と期待を膨らませる。
与えるだけの福祉や一過性のチャリティではなく、社会の一員として対等に関われるビジネスが必要だと四人は口をそろえる。
「だんだんボックス」の段ボール箱は現在、福岡県下40か所の郵便局のほかスーパー麻生でも扱われており、同スーパーでは買い物袋にもデザインを使うことにしている。
明太子の椒房庵、湯布院の玉の湯も趣旨に賛同し、この活動を知った愛知の岡崎信用金庫は、「うちは封筒で参加できる」として、みよし市の障害者施設とデザイナーとの合同で三種類の現金封筒を作った。
同実行委員会は「だれの身の回りにも、この活動に参加できるアイデアやスペースがあるはず。全国の『ご当地だんだんボックス』が日本中を行き交うようにしたい。ぜひ力を貸してほしい」と参加を呼び掛けている。
社会復帰めざす人のかうひい工房ぺるる
昭和30年代の雰囲気を今も色濃く残す吉塚商店街。そこからちょっと離れた路地横に、自家焙煎のコーヒーとドイツのパンを売っている「かうひい工房ぺるる」がある。
運営しているのは小串武さん(写真左=70)と妻の路子さん(同右)。
ここに店を建てて8年目。最初の1年は共同作業所(小規模作業所)として下請け仕事をしていた。というのもこの場所は、主に統合失調症を患って回復途上にある人が、社会復帰するための施設。
内職のような仕事ばかりしていたのでは社会との接点が失われるだけだと判断し、2年目から今の形態に変えた。今は小串さん夫婦の他にボランティアスタッフと利用者十数人が通いで常駐する。
「保護しているだけでは、本当の障害者になってしまう。普通の生活と切り離さないことが大切」と小串さんは言う。だから施設も商店街の近くに建てた。店の前を通る見知らぬ人にあいさつさせる目的もあった。
「ここに集う人の多くは自己評価が低い。そんな彼らに自信をつけさせてやりたくて」とも言う。
小串さんはもともと臨床心理士。福岡教育大を卒業し、県の職員や国立病院のカウンセラーとして、あるいは社会復帰施設の所長として、精神に苦しみや障害を持つ人に、直(じか)に関わってきた。店の名前ぺるるは真珠の意味。パールの様に目立たずひっそりと、しかし気品は失わないでとの小串さん夫婦とスタッフの願いが込められている。
そしてこの店にはもう一つの顔がある。それは吉塚商店街のホームページを管理していること。
「共存共栄の関係」だと小串さんは話す。だから商店連合組合の事務局長も引き受け、商店街イベントや、月に1回の商店街での健康相談会も進めている。「商店街がにぎわえば、ぺるるに足を運んでくれる人も増え、それがぺるる利用者にいい効果をもたらす」。そう小串さんは信じている。
- 【かうひい工房ぺるる】
- 福岡市博多区吉塚1丁目20-3
電話:092-611-7725
吉塚商店街HP:http://www.yoshiduka.com/