子どもの歯科治療のカギは親との対話にある
子どものむし歯治療をするには、親との対話が必要だ―。心理学やコーチングを学び、小児歯科の治療に取り入れている尾崎正雄教授。狙いや手法を聞いた。
―これまでの歩みと小児歯科を取り巻く傾向を。
福岡歯科大学を卒業後、九州心身医学研究会という歯科治療と心理学を結びつける研究会に参加して、心理学の権威である九州大学の前田重治先生にお会いしました。そこで心理学のおもしろさにのめり込んだのです。
卒業が近づき、先々代の当科の教授に「本当は心理学がしたい」と話をしたところ、「うちの科なら心理学の勉強ができる」と誘ってくださったのが小児歯科に進んだ理由です。
研究室では子どもの心理療法を学びました。当時、子どもの指しゃぶりをやめさせるために固定器具を着けていたのが、かわいそうでならなかった。絵画療法や行動療法を試すなど、子どもたちに心を開いてもらうのに必死でした。
―子どもを診察するときのコツはありますか。
小児歯科は、まず口を開けさせるまでが一苦労です。30分以上かかることもある。私は子どもに報酬や罰を与えて、自発的に行動するように学習させる「オペラント条件付け」という心理学の方法を応用しています。「良い子にしていれば、ほめられる」という状況を作り出す。叱ってはいけません。
全国的に子どものむし歯は減っていますが、患者の状態は二極化しています。定期検診に必ず来て「むし歯なんてできたことがない」という子がいる一方で、ほとんどの歯がむし歯になり、治療に全身麻酔が必要なほど悪化してしまった子もいる。後者の場合は、家庭環境に原因があることがほとんどです。
親の仕事が忙しく、歯磨きをさせていない。夕食が遅くなるので、ジュースやお菓子を常に手が届く場所に置いている。そして親がそんな自分を責め、現実から目を背けようとむし歯治療にも来なくなり、ますます状況が悪化する...。そんな状況では、治療を施すだけでは、また再発してしまいます。
―親など保護者にどのように指導をしていますか。
昨年コーチング認定免許を取得し、そのプロセスを親との対話に取り入れています。例えば、子どもの口内の状況を正直に伝え「どう思いますか。何が悪かったと思いますか」と問い、考えてもらう。私がその時、「歯磨きの方法が悪いから指導したい」と思っても、決して口に出しません。保護者が「ジュースを冷蔵庫に常備しているのが良くないと思う。それをなくします」と答えたら、それでもいい。少しでもリスクを減らすことができるのなら、それでいいのです。
そして1週間後、「どうでしたか」と尋ねます。「冷蔵庫にジュースは1本もありません」と答えたら「すごいですね」「がんばっていますね!」。子どもの歯をきれいに保ちたいと思わせて、成功体験につなげていく。時間はかかりますが、本人の内側から湧いてくる気持ちを大切にしていくことが、強い効果を生み出します。
叱ると言うことを聞かないのは、大人も同じです。できなかったことに対して、原因を自分で考えさせ、気づかせていく。「教える=コンサル」とは違う、本人に合った答えにたどりつけると考えています。
近年、食事の軟化による、「飲み込めない子どもたち」が目立ちます。既製品の離乳食は軟らかく、ほとんどかまなくてよい。そのため通常なら自然とできるようになる「上あごに舌先をつけて飲み込む」ということが学べないのです。
きちんと月齢に合った固さの離乳食を食べさせ、唾液がきちんと出るように教育しなければならない。今後は小児歯科主催の料理教室などを開催し、正しい食育ができればと思います。
福岡歯科大学
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