産業医科大学医学部 麻酔科学 川﨑 貴士 教授

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周術期の管理が長期予後も左右する

【かわさき・たかし】 久留米大学附設高校卒業1990 産業医科大学医学部卒業 同麻酔科入局2005 米アラバマ大学バーミングハム校外科フェロー 2007 米テキサス大学医学部内科感染症部門准教授 2008 産業医科大学医学部麻酔科学准教授 2015 同教授

◎高齢化背景にチームでリスク回避

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 産業医科大学病院は、手術室が12室、ベッドが678床。年間手術件数7000件ほどのうち、麻酔科管理は約5000件あります。

 この数を大学にいる麻酔科のスタッフ20人程度でまかなうのは、かなりハードですが、外科系診療科との協力体制の下、非常にスムーズな手術室運営ができていると思います。

 ただ手術件数はこれからもしばらくは増え続ける予想。手術室を一層効率的に使っていく必要があります。手術時間や麻酔にかかる時間を短くするのには限度があるため、手術のインターバルを短くし、稼働率を上げることに重点を置いています。

 患者さんの状態や術中・術後に起こる可能性がある合併症などを術前にしっかり評価し、リスクを下げるために外科系の主治医や看護師、薬剤師などがチームとして介入する。そんな取り組みを本格化させています。

 例えば、これまで長い間「手術を受けた後の患者さんは認知機能の低下が進む」と言われてきました。そこで高齢者に対しては、以前から吸入麻酔薬として使用してきた「セボフルラン」ではなく、認知機能を落としにくいと言われている「デスフルラン」を使用。鎮静剤の中にも術後せん妄の誘発因子になるものが知られていますので、術前から避けるなどの対応をしています。

 術後の痛みをとる方法も、通常は硬膜外麻酔が主ですが、心疾患等で抗凝固療法をしている人に対しては、エコーガイド下での神経ブロックを実施。1度の注射で12〜24時間程度痛みを取る方法だけでなく、カテーテルを入れた持続的な神経ブロックで数日間痛みを取る方法も取り入れています。

 複数の合併症がある患者さんが手術を必要とする場合が増える中、個々の患者さんの状態に応じた麻酔の重要性が高まっています。さまざまな患者さんに対応できるよう新しい知識や技術を取り入れています。

◎影響大きい麻酔科医の仕事

 悪性腫瘍の手術をした患者さんを術後フォローした研究で「術中や術後に硬膜外麻酔を使った人の方が、吸入麻酔と麻薬主体の麻酔をした人よりも腫瘍の再発率が低かった」という結果が出ているものがあります。「術中、3回以上の低血圧があった場合、腫瘍の再発を高める」とする研究データも発表されています。

 麻酔科医は、患者さんの手術が終わり、術直後を問題なく乗り切れば、「無事終わった」という感覚を覚えがちです。しかし、手術麻酔が患者さんの予後に影響を及ぼす可能性が出ている。忘れてはならないポイントです。 さらに言えば、「術後の痛みをしっかり取る」のも、患者さんの予後を良くするために欠かせないことです。

 「痛み」そのものが患者さんの免疫力を低下させてしまうから、という理由だけではありません。痛みがあると、しっかり咳ができず、痰が出せないので、肺炎のリスクが上がる。痛みを感じていると血圧が上がるため、心血管イベントの可能性も高まる。痛みがあって良いことは何もないのです。患者さんが痛いと言わなくてはならないような状況を作らないこと。それが、麻酔科医として大事な仕事だと考えています。

 われわれの病院では、産科の依頼を受けて、無痛分娩のための硬膜外麻酔も、麻酔科医が実施しています。無痛分娩は、欧米では100年以上前から実施されてきました。一概に「危険な方法」とは言えないと思います。ただ、「硬膜外カテーテルを入れる」ことに合併症がまったくないわけではない。きちんとトレーニングを受けた麻酔科医がするのが一番安全だと考えています。

 「硬膜外自家血注入(ブラッドパッチ療法)」にも長年、取り組んできました。2016年に保険収載され、先進医療ではなくなったとは言え、県内でこの治療を実施しているのは今もごくわずかな施設です。

 外傷によって脳脊髄液が漏れ出し、頭痛などを発症する「脳脊髄液減少症」の治療法で、患者さんの硬膜外腔に本人の静脈血を注入。それによって脳脊髄液が漏れている部分をふさぎます。症例数自体は多くないものの、県内を中心に各地から患者が訪れています。

◎侵襲に共通項「熱中症」を研究

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 研究は大きく分けて、慢性疼痛(とうつう)の発生機序の解明と治療法の開発を目指した「ペイン」のグループと、外科的侵襲が免疫系に与える影響とその制御法の開発を目指す「侵襲」グループがあります。

 「ペイン」には、治療に難渋する「神経障害性疼痛」の動物モデルを使い、痛みを取るための治療法を研究している班と、薬理学の基礎的なメカニズム「イオンチャネル」について研究している班があります。

 私自身は「侵襲」側で、長年、外科手術や出血外傷によって低下する免疫能を制御する方法を追究してきました。産業医学との関連で言うと、熱中症の治療や制御の研究にも取り組んでいます。製鉄所など高温環境で働く人の熱中症は、産業医学の分野では長年の課題です。熱中症の場合、侵襲によるショック状態と同じような生体反応を示すことから、この研究にも着手しました。

 熱中症の時は、最終的に敗血症性ショックと同じように播種性血管内凝固症候群(DIC)が起こります。そこで、マウスを使い、DICの薬を投与して4時間高温環境に曝露(ばくろ)した場合と、高温の場所に2時間曝露した後に薬を投与し、さらに2時間高温環境に曝露した場合の治療効果の比較などをしています。

 これまでは現在すでに臨床で使われるようになったDIC治療薬を使って研究をしてきましたが、今後は、新たな治療薬を見つけ出すことができればと考えています。

 診療、教育だけでなく研究もわれわれの大事な仕事です。最近、マンパワー不足でほとんど出せていなかった大学院生を、来年度は基礎研究室に送り出すことができそうです。これを機に、研究にもさらに力を入れ、若い人たちのモチベーションの喚起につなげていきたいと思っています。

産業医科大学医学部 麻酔科学
福岡県北九州市八幡西区医生ケ丘1-1
TEL:093-603-1611(代表)
http://www.uoeh-u.ac.jp/kouza/masui/


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