本当の急性期病院の姿を示していく
―熊本地震から一年。当時の済生会福岡総合病院の動きを教えてください。
済生会のネットワークは北海道・東北、関東、信越・北陸、東海、近畿、中四国、九州の6ブロックに分かれています。
各ブロックに災害支援基幹病院、準基幹病院を定めており、九州ブロックの基幹病院が当院、準基幹病院が済生会熊本病院です。大規模な自然災害などが発生した際には、この2院が中心となって対応する仕組みです。
4月16日の本震発生直後に済生会本部の職員が2人、現地入りして連絡本部が稼働しました。私たちは支援活動の準備を進めながら、現地から入ってくる情報を各病院と共有しました。
済生会の各病院は有事に備えて物資をストックしています。今回は済生会熊本病院が被災しましたので、全国から当院にすべての支援物資が集まりました。事務職員が震災発生後2週間ほど、済生会熊本病院へ送り続けました。物量は医療材料と食料などの一般材料を合わせて30tに上りました。
診療救護班は16日の午前7時には熊本へ出発。現地には当院のチームと、八幡総合病院、大牟田病院、長崎病院、唐津病院、日田病院からスタッフが派遣されました。
それとは別に、当院のDMAT(災害派遣医療チーム)も出動し、16日に福岡空港航空自衛隊基地内でSCU(臨時医療施設)を設置。17日は聖マリア病院、久留米大学病院のSCUで搬送患者を受け入れました。
JMAT(日本医師会災害医療チーム)としては21〜24日に熊本市内の避難所を巡回しました。
済生会では、阪神・淡路大震災、東日本大震災など、これまでの経験を生かした災害時対応のシステムが確立されています。熊本地震でも、非常にスピーディーに対応できたのではないかと思います。
災害時に重要なのは、正確で混乱しない情報を迅速に共有するシステム。その情報を集約して、人、モノをどう合理的に届けるかに尽きるでしょう。
被災地が求める物資や医療は刻一刻と変わっていきます。
当初は急性期の患者さんが多いが、避難生活が長引けば療養型病床のような手当てや精神的なケアが必要です。変化を見極め、必要
なときに必要な医療を判断する能力が、災害時の拠点病院には問われます。
南海トラフ地震の発生で想定される被害の規模だと、もはや地域ごとのブロックを中心とした体制では追いつかないでしょう。これまでにない広域災害時の全国レベルでの対応策を、現在、済生会本部では検討しています。
―1998年の院長就任から20年目。4月に福岡医療福祉センター総長、済生会福岡総合病院名誉院長に就任されました。現状と今後については。
福岡医療福祉センターは、当院と済生会飯塚嘉穂病院の連携に関する機能などを担っています。
センター総長の役割は、病院経営に関連する業務や、医師確保のための各方面との交渉などです。
新たな立場になり、より客観的にこの病院のことを捉えられるようになるでしょう。名誉院長として、松浦弘院長のサポートなど、アドバイザーとしてのスタイルに移行していくと思います。
今後、当院が進むべき方向は明確です。「急性期病院である」というスタンスを、もっと打ち出していくことです。
地域医療構想が進む中、病床再編の流れにうまく乗れない医療機関も多く出てくるでしょう。まさに病院淘汰(とうた)の時代が始まっているわけです。
私たちは「本当の急性期病院」とは何かを、しっかりと数値で示していく。ゆくゆくは、福岡・糸島二次医療圏の急性期病院のトップブランドを確立したいと考えています。
赴任当時、私がイメージしたのは「都市型の急性期病院」の構築です。
1993年、シカゴ大学留学中に、ボストンのマサチューセッツ総合病院(MGH)を見学しました。ダウンタウンの中心部にあり、ひっきりなしに救急車がやってきては受け入れる。通常の診療もしっかりと両立させている。その様子が印象的でした。
天神の中心部にある当院の立地環境もMGHに近く、あのような病院になっていけばと想像したものです。今、タイプとしては近づきつつあるという感触を持っています。
救急車の受け入れ台数は、年間約4400台で推移しています。そのうち60%強の患者さんが当院に入院します。一般的な入院率は30%程度と言われていますから、それだけ重篤な人を受け入れていることになります。信頼される救急医療を提供できている結果だと思っています。
―強化していくべきポイントは。
強みを伸ばしていくためにも、引き続き人材の育成に力を入れていきます。
当院には、業務マネジメント手法であるBSC(バランス・スコアカード)を用いた独自の「パフォーマンスレビュー」制度があります。部長クラス以上のドクターを対象にしたシステムで、組織への貢献度や、病院のビジョンに対する姿勢などを、看護師や事務スタッフが評価します。
病院を成すのは「人」で、その中心にいるのはドクターです。ドクターの質が低下すれば、経営は行き詰まります。
改善点を伝える上で効果的なのは客観的なデータです。言葉だけでは、業務に追われる中で忘れてしまったり、誤解を生んだりすることもあるでしょう。
レビューの結果を目に見えるチャートとして示して、「ここが足りない」ということを認識してもらうのです。
この制度は広く意見を吸い上げる点でも有効です。トップダウンだけの経営は、必ずほころびが生じます。吸い上げた声を検討して煮詰めて、提示したものを多くの職員の目がチェックする。トップダウンとボトムアップの中間的なバランスが重要です。
現在、87.9%の病床利用率、83.3%の紹介率(2015年度)の向上もこれからのテーマです。
特に地域医療連携は、私が先頭に立って取り組んできたことの一つ。2009年から開放病床を設け、2010年には地域医療支援病院の指定を受けました。
地域の医療機関との日ごろからの十分なコミュニケーションは、災害時にも、足並みをそろえ大きな力を生む後押しとなるはずです。
社会福祉法人恩賜財団済生会 福岡県済生会福岡総合病院
福岡市中央区天神1-3-46
TEL:092-771-8151(代表)
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