愛媛大学医学部 器官・形成領域 泌尿器科学 雑賀 隆史 教授

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低侵襲で結果を出す"血も涙もない"手術を

【さいか・たかし】 徳島市立高校卒業 1988 岡山大学医学部卒業同附属病院泌尿器科入局 1991 米国スタンフォード大学臨床腫瘍科研究員 1992 岡山大学大学院修了 香川県立中央病院泌尿器科2000 米国ベイラー医科大学泌尿器科研究員(文部省在外研究員)2002 名古屋大学医学部附属病院助手 2010 岡山大学医歯薬学総合研究科泌尿器病態学准教授 2011 広島市立広島市民病院泌尿器科主任部長 2016 愛媛大学大学院医学系研究科泌尿器科学教授

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◎外科医の意識改革

 教授に就任してからの1年間は、泌尿器科医としての知識や手技だけでなく、意識改革にも重きをおいて教育に取り組んできました。

 すでに医師である先生には、外科診療を主に指導していますが、ただ手技を磨くことだけが目的ではありません。手術というものは、少なからず患者さんに負担をかけるものです。しなくて済むものならしないほうがいいのです。

 われわれ外科医は「手術がうまくなりたい」「いい技術を持ちたい」という感情を持ちやすい。しかし、いい技術を持つ目的は病気を治したり、病状の悪化を防いだりすること。自己満足のためであってはいけません。

 外科医にとって何より大事なのは、手術をした方がいい人、しなくてもいい人、してはいけない人の区別をきちんとつけることです。何でもかんでも手術をすればいいというものではありません。

 当医局では、技術面の指導をする上で「血も涙もない手術をしよう」を合言葉にしています。これは、出血させない手術、患者さんも医師も、後でお互いに泣かなくていい手術をしようという意味です。患者さんの体への負担や入院期間を減らし、外科医の負担も軽減するために、安全、確実な手術を目指しています。

 大学院生には、研究の重要性を伝えています。2004年の新医師臨床研修制度施行によって、大学を離れ、研究生活を送らない人が増えました。しかし、研究は臨床医にとっても重要な要素です。仮説を立てたり、立てた仮説が正しいのかどうかを検証したりすることは、臨床を続ける上でも必要とされます。

 当講座の関連施設の先生方には、一度は研究生活を経験してもらいたい。そのためにも、研究生活を送ったことのある臨床医の観点で、興味の持てる研究を提案し、共に探していきたいと思っています。

 地方国立大学の役割は、この地域の医療水準を上げることです。一人でも多くの医師を育てるために、学部学生には医療に興味とやりがいを持ってもらえるような指導をしています。

 医療の現場では、ある程度の激務も覚悟しなければなりません。目の前の患者さんを助けるための喫緊(きっきん)の課題もたくさんあります。それは避けて通れない。それでも、医師を続けていくには、やりがいを見つけて、自分なりに楽しくやっていく方法を見つけることが大切です。

 われわれ指導者は、彼らがやりがいを持って学ぶことができる環境をつくっていくべきだと考えています。

◎進化する泌尿器科治療

 当科では2013年6月に手術支援ロボット「ダビンチSi」を導入し、ロボット支援前立腺全摘除術を開始しました。出血量も合併症の発症率も開腹術や腹腔鏡手術など従来法と比べものにならないほど少なく、技術の進歩の著しさを感じています。

 泌尿器腫瘍学では、手術の他に、経過観察、放射線治療、抗がん剤治療、免疫療法などがあります。放射線照射装置も、以前のものと比べると格段に精度が上がっており、治療に伴う合併症や後遺症が減りました。抗がん剤による副作用もずいぶん減っています。

 私の専門である免疫療法では、画期的な免疫チェックポイント阻害薬「ニボルマブ(商品名オプジーボ)」が発売されました。この治療薬は、がん細胞が持つ防御機能を無くすことによって、ヒトが本来持っている免疫力でがん細胞を攻撃するというものです。

 以前から、それとは違ったアプローチで「樹状細胞ワクチン」の研究に取り組んできました。これは、免疫細胞の一つ「樹状細胞」の働きを利用した、がんの治療法です。樹状細胞は、体内に入ってきた異物の特徴を攻撃役の細胞に伝える働きを持ちます。樹状細胞の基になる細胞を患者さんから取り出し、体外で培養・強化。がんの目印を与えることで、攻撃役のリンパ球が確実に働くようにします。この研究を成功させることは、われわれにとって長年の夢でもあります。

◎患者の増加と医師不足

 県内の泌尿器科医の総数に大きな変化はありませんが、他県と違って泌尿器科医が透析医療も担っているという現状があります。高齢化が進むとともに透析患者は年々増加していますから、医師が足りなくなってしまうのです。

 がんの手術であれば、一つの医療センターに集約して対応することもできますが、透析医療はセンター化することができません。週3回の通院治療をされている患者さんも多いため、患者さんが自宅から通える距離に点在させておく必要があるのです。

 愛媛県は、人口も医療施設も松山市に集中しています。県の両端から松山市まではかなりの距離があり、移動時間が長いという問題があります。また、医療の不平等を解消するために、拠点となる医療機関と医療者をどのように配分するかが大きな課題です。

 近年、外科系領域では腹腔鏡下手術が増えましたし、泌尿器科領域でも内視鏡手術が多い。医療拠点同士をネットワークでつなぎ、術中の画像・音声のやりとりができれば、遠隔指導で手術することも可能です。

 ネットワーク指導から始めて、ゆくゆくはネットワーク診療、ネットワーク手術も可能になるでしょう。そうなれば、そこに極端なエキスパートを配置する必要もなくなり、人手不足もいくらか解消できるのではないでしょうか。

◎前立腺がん治療の現状

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 前立腺がんの患者さんが増加している背景には、高齢化だけでなく、健康診断の普及によって、がんが見つかる頻度が上がったことも挙げられます。

 一方、患者さんの寿命にも生活にも影響のないがんが見つかるケースも増えています。前立腺がんと診断されても、すべてに治療が必要というわけではありません。

 現在、前立腺腫瘍学の最も大きなトピックスに、「アクティブサーベイランス」という待機療法があります。早期で、しかも悪性度の低いがんの場合は、手術も放射線治療もせずに経過観察をするというものです。

 「治さない治療」もある。そうした知識を持ち、正しい診断ができる泌尿器科医を育成することが私の使命だと考えています。

 病気を相手にしていると、うまくいかないこともたくさんあるし、結果に満足できないこともあるでしょう。しかし、結果はどうであれ、患者さんから「この先生でよかった」「この病院に来てよかった」と思っていただければ、医療者としての仕事は達成できているのです。

 医療者同士、学生同士でも「この人に教わってよかった」「出会ってよかった」と思ってもらうことで、自分が生きてきた価値、やってきた仕事の価値を見いだすことができる。その視点を忘れない医療をこれからも継続していきたいと思います。

愛媛大学医学部 器官・形態領域 泌尿器科学
愛媛県東温市志津川
TEL:089-964-5111
http://www.m.ehime-u.ac.jp/school/urology/

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