鹿児島大学研究推進機構 難治ウイルス病態制御研究センター 血液・免疫疾患研究分野 石塚 賢治 教授

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鹿児島から世界に
ATL治療の発展を目指して

【いしつか・けんじ】 1988 鹿児島大学医学部卒業 2001 福岡大学病院医員 2003 ダナ・ファーバー癌研究所(米国ボストン、リサーチフェロー) 2006 福岡大学病院講師2015 同准教授 鹿児島大学研究推進機構難治ウイルス病態制御研究センター血液・免疫疾患研究分野教授

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―成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)の医師主導治験、臨床試験を積極的に実施しています。

 ATLはHTLV-1というウイルスの感染が原因で起こる疾患です。HTLV-1 ウイルスのキャリアは世界で1000万人以上、日本では80万人ほどと推定されますが、鹿児島県は世界的にもキャリアの最も多い地域です。

 感染経路は母乳や性交渉です。感染しても多くの場合ATLを発症することはありません。潜伏期間が長く60歳以降が発症のピークです。

 日本で、がん治療に対して抗PD-1抗体製剤「ニボルマブ」が承認、販売されたのは2014年。当教室は、それより前の2009年に吉満誠准教授が基礎実験によってATL治療に抗PD-1抗体が有効である可能性を報告していました。

 その実験データやその後の情報の蓄積をもとに免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブのATLへの有効性を評価する医師主導治験を九州と名古屋の5施設で実施しています。ATLの患者さんを対象に2週間に1回ニボルマブを投与し、安全性や奏効割合、無増悪生存期間、生存期間を評価しています。

 ATLの患者さんの数は、他の地域より多いとはいえ、肺がんや乳がんなどの他のがん腫に比べたら圧倒的に少ないわけです。治験や臨床試験は、安全性の確保が重要ですから、身体の状態等の条件を満たす患者さんでないと参加できません。特にこの病気は急速に進行することも多いことから、臨床試験の実施は容易ではありません。治験に入ってもらうための検査をしている間に悪化して規定を満たさなくなることも多いですが、少しずつ症例を積み重ねています。

 この臨床試験により、ATLに対して免疫チェックポイント阻害薬が有効であることが証明されたら、ATLに画期的な新治療が導入できることになります。

 また2012年に承認された分子標的治療薬「モガムリズマブ」の有用性を最大限に引き出すATLの治療法の確立のための医師主導臨床試験も2013年から実施しています。

 ATLは「急性型」「リンパ腫型」「慢性型」「くすぶり型」という四つの病型に分けられます。このうち、「急性型」と「リンパ腫型」「予後不良因子を持つ慢性型」には同種造血幹細胞移植が有効だとされています。

 この臨床試験では、同種造血幹細胞移植が適応されない高齢者を対象にCHOP 14療法という化学療法と、モガムリズマブを併用し、有効性を検証。九州、名古屋の12施設で実施しています。

 参加施設には大学も5施設含まれています。特にATLのような稀少疾患の臨床に関してはみんなで協力して取り組むべきだと思っています。

 「くすぶり型」と「予後不良因子を持たない慢性型」のATLに対し、海外では「インターフェロンα」と抗HIV薬の「ジドブジン」の併用が有効だと言われています。欧米ではガイドラインにも記載されています。

 私は日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の研究で、インターフェロンαとジドブジンの併用の有効性を検証するための臨床試験も実施しています。

 間もなく中間解析になりますので、結果を楽しみにしています。

―キャリア数は徐々に減っているそうですね。

 1990年のATLの原因ウイルスであるHTLV-1の感染者は全国で推定120万人。2010年に厚生労働省科学研究班が実施した調査では、全国のHTLV-1のキャリア数は108万人、最近では80万人と推定されると発表されています。

 キャリア減少の要因として、国が母子感染対策を開始する2011年以前から、鹿児島や長崎ではHTLV-1の抗体検査で陽性だった妊婦さんに断乳や凍結母乳などの授乳制限を推奨していたこと、昔に比べて授乳期間が短くなったことなどが考えられます。

 今の高齢者は、4、5歳まで母乳を飲んでいた人が多かったそうです。きょうだいが多く年子なども多かったからかもしれません。一方、現代は1歳ぐらいで断乳します。昔より「短期授乳」になっているわけです。

 1990年に当大学が実施した調査の結果では、ATL患者のきょうだいの半数がHTLV-1陽性でした。

 授乳制限を全くせずに1年間授乳した場合の母子感染率が約20%、3カ月間の短期授乳では3%程度に留まることがわかっています。

 ATLの患者は授乳制限や断乳などにより、今後も急速に減っていくことが予想されます。50〜60年後には日本では患者がいなくなることも十分予想できます。

 しかし、日本以外のカリブ海諸国、南米、インド、パプアニューギニア、オーストラリア北東部を中心にキャリアが多いことが分かっています。

 日本のような先進国では母乳を飲んでいる子と人工栄養の子で感染症にかかる率に大差はありません。しかし開発途上国では衛生環境や医療資源が異なり、人工栄養は母乳に比べて感染症のリスクが高いと言えます。

 そうした国々に対し、日本、そしてここ鹿児島の地で新しい薬や新しい治療法を開発し、他国の患者さんに対しても提供していきたいですね。

―今後の目標は。

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 生まれ故郷の鹿児島大学で13年半、福岡大学で14年半過ごし、一昨年、51歳の時に鹿児島大学に戻ってきました。残りの医師人生の仕上げとして人材育成に注力していきたいと考えています。

 私が以前鹿児島で学び、仕事をしていたころは、鹿児島が私の「標準」であったし、鹿児島で満足していた。決してそれが悪いことだとは思いません。ただ福岡大学に行き、また海外に留学したことで、視野が世界へと広がったということは実感しています。

 まだまだマンパワー不足のため、十分な機会を作ることはできていませんが、教室員には、海外、国内を問わず目を向けてもらいたいと思っています。そして、学んだ経験を還元してくれたらうれしいですね。

鹿児島大学研究推進機構 難治ウイルス病態制御研究センター 血液・免疫疾患研究分野
鹿児島市桜ケ丘8-35-1
TEL:099-275-5111(代表)
http://www.kufm.kagoshima-u.ac.jp/~k-blood/


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