久留米大学医学部外科学講座 赤木 由人 主任教授
■所属学会等 日本外科学会、日本消化器外科学会、日本癌治療学会、日本消化器病学会、日本臨床外科学会(評議員)、日本臨床腫瘍学会、日本消化管学会(代議員)、日本食道学会、日本胃癌学会、日本大腸肛門病学会(評議員)、日本ストーマ排泄リハビリテーション学会(評議員)、日本内視鏡外科学会、日本外科系連合学会など
久留米大学医学部外科学講座は食道、胃・大腸、乳腺・内分泌、呼吸器、肝・胆・膵、心臓血管、小児と幅広い範囲の外科部門をカバーし、2人の主任教授が置かれる。今回は昨年4月に就任し、消化管、乳腺、呼吸器を統括する大腸がんのエキスパート、赤木由人主任教授を訪ねた。
―主任教授になって1年です。
大学医学部としての役目は教育、研究、診療。私立大学ですから、特に診療に重きを置くことが、学生からも患者さんからも求められていると思います。
診療、そして教育の面とも少し重なりますが、若い人材を育成すること、自分の次の世代を早急につくることを目的に、若い医局員に手術を数多く経験させています。
私のころは徒弟制度で、手術は見て覚える時代でした。助手の期間のほうがずっと長く、メインで執刀させてもらったのは12年前が最初です。今、後進を育てるために、また助手をすることが増えています。助手もなかなかうまいですよ。
―教育について聞かせてください。
医学部の教育には卒前教育と卒後教育があります。学部生対象の卒前教育では、これまで手術の手技などをスライドに映して見せながら説明していました。でも、今の若い人はそれではおもしろくないようですね。そこで動画を取り入れるなど興味を持ってもらえる方法を工夫しています。
それから、学生と接する機会をたくさん持つことを心がけています。
例えば、学部5年生はクリニカルクラークシップ(臨床参加型実習)と呼ばれる病棟実習があります。約120人いる5年生が、6人ぐらいずつのグループを組んで、2週間ずつ各病棟を回るんです。
そこで、外科で実習した2週間の総括として各グループを教授室に呼んで、1時間ほどかけて学んだことを聞いたり、私の過去の経験や社会常識を伝えたり、雑談したりと、直接会って話をするようにしてきました。
「教授と直接会話することで、外科に対する印象が変わったようだ」と学生の反応を外部から聞くこともあります。自分の子どもと同じぐらいの年齢ですから、子どもに話すような感じですね。
もう一方の卒後教育、これが困っているんです。2年間の初期研修で外科に人が回ってこないのですから。久留米大学医学部の卒業生の6割ほどは福岡市内、または東京などの県外に行ってしまいます。残った4割の中で外科を志す人となるとさらに少なくなり、今年の教室の入局者は2人です。外科医になる人が急激に減っているんです。
卒後教育の方針は当病院の目標にもある「患者中心の医療」。話を聞き、見て、触れて、起こりそうな疾患を頭に浮かべる。画像診断などの精度が上がっている今でも、昔ながらのやり方が重要で、基本ではないでしょうか。
―外科医のおもしろさはどんなところですか。
診断から手術、経過観察までを受け持つことができ、評価できるのが外科の魅力です。私は専門を選ぶ時、内科医になるか外科医になるかを迷いました。それは、どちらも全身管理ができる診療科だったからです。
そして手術をして治したい、手術した後、その人がどうなったか、どうなっていくのか診ていたいと思って外科を選びました。ですから、どんなにきつくても、外科を辞めようとも開業しようとも思いませんでした。大学に残れたことは、私にとっては幸運だったと思います。
外科医の武器は、メスあり、薬あり。いろいろな武器の中から、どれをどのタイミングで使って病に闘いを挑むのか、ある程度、自分で主導権を握って決め、治療を進めていけます。それが外科のおもしろさではないでしょうか。
―今後の目標は。
大学が大きな会社だと考えると、私の立場は支店の支店長といったところです。外の病院にも医局員を出していますから、許された人事権の範囲内で、適材適所に人を配置したいと思っています。
また地域ごとに消化器なら消化器、心臓なら心臓、呼吸なら呼吸、と集約し総合的に診療ができる施設の確立を目指しています。そこに医師を派遣する形になれば、患者さんにとっていいのはもちろん、医師の人材育成にもつながると思っています。地域で患者さんを診断、治療できるようなシステムが理想。なかなか難しいとは思いますがね。
医局員には、オンリーワンよりナンバーワンを目指してほしい。ジェネラリストの先にスペシャリストがいます。そのためにどうしたらいいか考え、行動するような人材育成を心がけています。「この手術は久留米大学病院で受けたい」と海外からも患者さんが来てくれるようになれば、本当にうれしいですね。